自然派ワインの造り手
「アレクサンドル・バン」

2017年7月28日
自然派ワインの造り手 「アレクサンドル・バン」

辛口・白ワインといえばシャブリ!というワインファンは多いと思うが同等に有名なのがプイィ・フュメというワイン。一般的にはレモンや柑橘類の爽やかな香りが感じられ果実味豊かで親しみやすいワインとされ、世界中でも知名度が高い人気のワイン産地。パリの南西の中央フランスに位置するロワール地方で、ソーヴィニヨン・ブラン種を使った辛口の白ワインが造られる。同じく人気のサンセールと対岸に位置しており、7つの村にまたがる。フュメ(Fume)はフランス語で「煙、蒸気」の意味。石灰質土壌等火打石から燻したような香りも感じられることからこの名前がついたという説もある。シャブリ、サンセールとともに銘醸地とされ人気が高くそれ故に構造的問題もありあまりにも有名になってしまったが故、ブランド的存在になってしまい品質追求を不要とし、ある程度のクオリティのワインであれば売るのに困らないという状況が、この地の生産者の多くを保守的な思考に走らせている。

アレクサンドル・バン氏は1977年生まれ、子供の頃、サンセールにある祖父の家の近くに移り住んだ時、農業をしていた祖父を見て興味を持ち、農業学校に進む。農業とは関係のない仕事をしていた父が自然派ワインのファンであった事から、ワイン造りに興味を持ち、卒業後にブルゴーニュや南仏を始め、カリフォルニアのワイナリーでも研修を積み、メヌトゥー サロンの「ドメーヌ アンリ プレ」で醸造長を務めた後、2007年に畑を購入して独立。5haほどの広さから始めたワイン造りも現在は11haほどの広さになり、中生代ジュラ紀後期の地層であるキンメリジャンやポルトランディアン土壌を備えた畑から印象的な味わいのワインを生み出す。

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BioWine_sub2 彼の造るワインは完熟した葡萄を使ってワインを造るという一見普通の事と思えるスタイルだが実はこれが難しい。一般的な醸造学校では、ソーヴィニヨン ブランにおけるワイン造りのセオリーとして、早い収穫や収量をある程度多くすることなどを教わるとのこと。しかし、他の産地に目を向けるとブドウのバランスの良い成熟度は、黒ブドウや白ブドウを問わずに重要視されており、なぜソーヴィニヨン ブランだけが青くて酸っぱい状態で収穫しなくてはならないのか、という疑問が彼の原点となっている。


BioWine_sub3 周りの保守的な考えに流されず畑で除草剤や殺虫剤、化学肥料などの化学物質を用いずに収穫量を制限し、完熟しつつも良い酸を備えたブドウを得るために収穫時期を遅らせる。そのため、一部のブドウに貴腐菌が付くこともあるのだが、その貴腐菌がついたブドウも含めて収穫し、濃密な果実味と品の良い酸、繊細なミネラル感を備えた従来のソーヴィニヨン ブランやプイィ フュメの概念を超えたワインを造る。


ブドウを完熟させ、その土地で生きる自然酵母の力でのみ発酵させ、厳密な濾過(ろか)も清澄もしない、場合によっては瓶詰め時に亜硫酸添加もしないワイン。しかしそれは周りの生産者はやっていない事。農薬、化学肥料、酸化防止剤、培養酵母を多用しリスクを限りなく回避したワイン造り。これが周囲では当たりまえであり、アレックス(アレキサンドル・バン氏の相性)のワインは異端とされている。彼のワインは普通じゃないワインとされているのだ。だから原産地呼称委員会は彼のワインにプイィ・フュメというAOC(原産地呼称)を与えなかった。このことはこの地に限った事でなくマルク・ペノ氏のワイン等多くのところで同じような事象が起きている。

彼はなぜ農薬や化学肥料、培養酵母、酸化防止剤の使用に制限のないワインたちが「普通」とされ、それ以外のワインがその土地らしさを表現しているはずのアペラシオン制度(原産地呼称制度)から除外されてしまうのか。この矛盾と戦うために以下のような声を上げてきた。
「INAOによって、今後手がける私たちのワインからプイィ フュメと名乗る資格を奪われることになりました。ぜひ皆さんに心にとどめておいて頂きたいのですが、私たちは畑では有機栽培を実践し、エコセールやデメテールなどの認証も取得しています。ドメーヌから遠く離れた一部の区画を除いて、馬による耕耘を実践しており、野草やハーブなどの力を借りつつ育ったブドウを、完全に熟したタイミングで手作業で収穫しています。手がけるワインの70%は、自然酵母による発酵からはじまる全ての醸造プロセスを通じて添加物を加えること無く、残り30%に関しても瓶詰め時の10mg/lの酸化防止剤となる亜硫酸以外は何も加えていません。この他にも、ドメーヌでの仕事の多くは自然環境やそのサイクを尊重し、多くを人の手によって行っています。完璧でない部分はまだまだありますが、こうして生まれる自然なワインは、飲み手にとっても、大地にとっても、そこで働く人々にとっても、そして私たち人類が共有するこの地球にとっても喜びをもたらすものだという信念のもと、私たちはワイン造りを行っています。」

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上記のような声を上げ続け、最近ではフランス国内の新聞やテレビ番組で彼の取り組みが紹介されたり、権威あるワインの資格といわれるマスター・オブ・ワインの称号をもつイザベル レジョロン氏が"Natural Wine"という書籍を発刊しナチュラルワインの素晴らしさを啓蒙し始めたのである。イザベルはインタビューで「マスター オブ ワインを取得しようとしていた頃の自分は、典型的なワイン人でした。しかし、テイスティングを続けるうちにそのころ飲んでいたワインがどんどんと同じような味わいに集約されて行くのに気付いたのです。そもそも自分がワイン業界に身を投じた理由は、大地の営みに立ち返ることでした。私の家族がそうであったように。にもかかわらず、ある時自分が、とても工業的で農業からは離れた世界に身をおいている事に気付いたのです。そして、個人的にではありますが、ワインから人柄を感じることができるものを飲むようになりました。そしてMWを取得した後には、今後のキャリアを自分自身が家で飲んでいたナチュラルワインに身を捧げようと決意するに至りました。」と語っている。

このような新しい世代による動きは着実に広がりを見せている。
そんな中嬉しいニュースが入ってきた。約2ヶ月ほど前にディジョンの行政地方裁判所が、INAOがアレクサンドル バンに課していたアペラシオンの剥奪処置を取り消す決定を下しましたのだ。これによって、アレックスのワインにプイィ・フュメの名がラベルに記することが出来るようになる。決して自分自身の為でなく純粋な疑問のために戦ってきた彼だが今後も色んな苦難が待ち受けているだろう。純粋に美味しいワインを造る彼を今後も応援したい!

ワイン

●レ・グラン・ザット 2014 白 アレクサンドル・バン

BioWine_sub5 2014年よりあらたにリリースされたこのレ グラン ザット。畑の立地は、マドモワゼル Mの区画から少し野道を進んだところにある区画で、植えられているブドウの樹齢は平均20-25年ほど。本来であればプイィ フュメを名乗れる区画ですが、アペラシオンを失った為、VIN DE FRANCEでのリリースとなります。

土壌のタイプは、マドモアゼル Mと同様に土質、砂質、石灰質の混ざったもの。この畑ではブドウの成長と成熟がゆっくりと進み、最終的には非常に高い熟度のブドウが得られます。この凝縮したブドウを自然酵母によって発酵させ、500Lの大樽にて熟成させ、厳密な濾過(ろか)や清澄は行わず、瓶詰め時の亜硫酸も添加しません。


●ラルヴェ 2014 白 アレクサンドル・バン

BioWine_sub6 以前スプリングと呼ばれていたキュヴェ。爽快でフレッシュな酸が特徴のワインです。良年となった2014年も素晴らしい仕上がりで、アレクサンドル バンらしい濃密な果実の風味と爽快さのバランスが秀逸です!


●エルダンジュ 2013 白 アレクサンドル・バン

BioWine_sub7 若干の酸化的なニュアンスもありますが、非常にクリアなミネラル感とリッチな果実味の重層的なハーモニーが、圧巻のワイン。


Profile

竹之内 一行(たけのうち かずゆき)

竹之内 一行 (たけのうち かずゆき)

1968年10月生まれ 神奈川県出身。横浜商業高校卒後、レストラン&バーでの修業、
1993年約3週間ヨーロッパへ食べ歩きの旅行をきっかけにワインに興味をもつ。
1996年日本ソムリエ協会ワインアドバイザー修得。その後も都内ワインスクールにてテイスティングの勉強を重ねる。2000年再度渡仏の際に教科書やワインスクールでは、知ることができなかった自然派ワインや地元でしか流通していない真のお宝ワインがあることに興味を持ちはじめ毎年渡仏し現地生産者等と交流を深める。現在、父親が始めた酒販店「エスポアしんかわ」代表。都内等ワイン飲食店にワインの卸や初心者のためのワイン講座等も行っている。

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