自然派ワインの造り手
「パトリック・デプラ」

2016年7月21日
自然派ワインの造り手 「パトリック・デプラ」

元写真家だったという所有者のパトリック・デプラ氏は、シャープな頬に無精ひげをたくわえた表情をし、「アトリエで新しい作品に没頭中」という一種"アーティスト"の雰囲気を持っている。小さい頃過ごしたオルレアンで、祖父や父親に連れられて森にキノコ狩りや川釣りをするのが大好きだった。白黒写真のカメラマンとして何年もパリで活動していたが、何かしっくりこないものを徐々に感じ始め、もっとゆったりした場所を求めてロワールのアンジュ地区にやってきた。まだこの頃はワインを知らなかったし、飲んでいなかったというから、今のパトリックさんからはとても想像もできない。

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自然はいっぱいでも、パリとは違い写真の仕事はおのずと減っていったが、彼は気にとめることもなかった。彼が惹かれたのは写真ではなく、「豊かな自然や土に触れる時間」であった。自然は彼の心を癒してくれ、目に見えないエネルギーを与えてくれる力がある、のだそうだ。友達の紹介によって1992年から2年間、アンジュのある醸造元で働くことになった。しかしくる日もくる日も蔵の中でビン詰めや、熟成中ワインの澱引きの仕事ばかりが続き、畑に出ることは一度もなかった。亜硫酸を使って醸造し、ろ過をしてワインは綺麗になっていく。しかしぶどう本来の風味がどんどん落ちていくばかり。「こんなことではぶどうの味が台無しだ!」 それに加え、醸造所で使っていた亜硫酸原液の強烈な刺激臭には閉口した。
こうした経験を通して、亜硫酸の影響を考えるようになったのはいうまでもない。

BioWine_sub2面白いのは、パトリックさんにとって、ぶどう畑の手入れと同じくらい周辺環境の手入れが大切だという点。隣接する栽培者(リュット・レゾネを実践)との境界部分に、農薬を分解する能力が高い草を生やして影響がこないように注意する。その境界部分には草花が茂り、てんとう虫やミミズなどが沢山いる「昆虫サンクチュアリー」となっている。また敷地内の栗が植わる雑木林をぶどうに植え替えたりせず、そのままの緑を放置する。雑木林に昆虫、ウサギや鹿といった動物が集まり、畑を囲む豊かな自然環境が出来上がるというのが彼の持論。「コミュニケーション・ナチュール」と彼が言うように、健やかな自然と守り対話する感性がないと、健全なぶどうの生育、言いかえるなら健全なぶどうができない。畑に微生物や多種多様な動植物が宿る「バランスの取れた環境」こそが、理想のぶどう畑の環境なのだ。「自然の声を聞いて、自然環境を尊重する畑作りが大事」というのが理解できる。その他、農場で飼っているヤギの糞から作った堆肥を使うのも自然を大切にする彼のこだわりといえる。現在のところ、一部「ビオディナミ」で使う薬草も使用するが、「ディナミゼー」はしていない。 通常は作柄や熟成具合に応じて 柔軟な対応をするものだが、ここまで厳格でかたくなな作り手は、そういるものではない。彼の強い視線の中にゆるぎない信念を感じる。


樽はこの近くのよく知る醸造家から譲り受ける古樽で1〜10年ものばかり。
SO2をビン詰めまで入れないから、出所の知れた衛生面でしっかりした樽を選んでいる。
上記の方法がいろいろと作用しあってSO2を殆どいれなくてもしっかりとした酒質のワインができるのだ。
SO2は、ビン詰め時に白ワイン(辛口)で10〜15mg/L、200mg残党のある甘口でさえ約20mg/Lと今まで体験したことのないほど極めて少ない。

BioWine_sub3 パトリックさんの名言その1:「甘口でもSO2が必要ならワインは造らない!」
この地区は、年間降水量は900mmで、ボルドーよりも雨の少ない地域なのだ。だから綺麗な貴腐菌が繁殖して、よりピュアな風味が生まれると共に、後口のひかかるようなにがみが無い。 「甘口でもSO2が必要ならワインは造らない!」と語ったのは、「辛口の白と同様に造りたい。余分には入れない。」というコンセプトゆえ。灰色カビがないからこそ、SO2を殆ど入れない「甘口」が造れるというわけだ。赤ワインに至っては全工程をSO2無添加で作るからこれまたびっくり。ワインがヴィネガーになっても変えない頑固な造りワイン哲学を感じさせるエピソードを1つ紹介しよう。2002年の赤ワインも熟成が終わろうとしていた2003年の夏、例の猛暑のせいで、亜硫酸なしで熟成中だった一部のワインに酢酸菌が発生して腐らせてしまった。そのワインは蒸留酒にして処分せざるをえなかった。「自然なワインとはテロワールとミレジムの表現」と言い切る彼は、熟成中にワインが腐るのもそのミレジムだ、と極めて厳しい作り方。


ワイン

BioWine_sub4 ●ヴォン・イ・トゥルヌ
ワイン名のヴォン・イ・トゥルヌとは「風向きが変わる」という意味。ナチュラルなワインはフランスでも長い間にわたり異端児として扱われ、時には蔑まれもした。ようやくフランスや日本はもちろん北欧諸国、アメリカやカナダでも認知されて来ました。この流れがこれからも変わらぬことを願って付けた名前。ラベルにはワイン名が記載されておらず、代わりにエチケットの左下に「VYT14」とだけ記されています。ワイン名のVent y Trouneの頭文字と年号を表しています。
ガメイからのグレナデンのような果実味と瑞々しいチャーミングな果実味のグロロー、スパイシーさや骨格を与える酸を持つピノドニスなど葡萄品種それぞれの良さが上手く調和した印象を受けました。軽いアタックですがしっかりと味わいを感じさせながら喉へと流れていきます。葡萄をギュッと搾ったような果実味が豊富でほどよい甘さと酸が柔らかく感じられ、タンニンは細かくスムーズな飲み心地です。
品種はガメイ、グロロー、ピノ・ドニス


BioWine_sub5 ●キャロリーヌ
岩盤の上に30cm程の表土に覆われている畑で、水分や栄養素が豊富にあることから、甘口用のブドウの収穫にも向いているとの事。大粒のものは9月頃に収穫し辛口へ、小粒のものは収穫を遅らせ甘口となります。また、樹齢が100年を超える為、辛口に仕上げてもふくよかな味わいになる傾向にあります。
リリース当初は揮発酸がだいぶ高く飲み時ではありませんでしたが、しばらく寝かせてあげるとピュアな果実味とふくよかな味わいがジンジンと湧いてきます。
控えめだった洋梨や桃、白いメロンやマンゴー等甘く熟した果実の香りが感じられるようになり、早生みかんのような溌剌とした酸と僅かに感じられるタンニンとの全体のバランスが整い、味わい深さが感じられるようになりました。時間の経過で色合いは褐変しやすいですが、それと同時に果実も黄色いプラムのようなニュアンス等も混ざり合い、より様々な果実の風味が豊かに感じられます。2日目には揮発酸はやや高く感じられますが、入荷時とは違い果実味がそれを上回ることで酸の高さを気にすることなく変化を楽しめます。
品種はシュナンブラン


Profile

竹之内 一行(たけのうち かずゆき)

竹之内 一行 (たけのうち かずゆき)

1968年10月生まれ 神奈川県出身。横浜商業高校卒後、レストラン&バーでの修業、
1993年約3週間ヨーロッパへ食べ歩きの旅行をきっかけにワインに興味をもつ。
1996年日本ソムリエ協会ワインアドバイザー修得。その後も都内ワインスクールにてテイスティングの勉強を重ねる。2000年再度渡仏の際に教科書やワインスクールでは、知ることができなかった自然派ワインや地元でしか流通していない真のお宝ワインがあることに興味を持ちはじめ毎年渡仏し現地生産者等と交流を深める。現在、父親が始めた酒販店「エスポアしんかわ」代表。都内等ワイン飲食店にワインの卸や初心者のためのワイン講座等も行っている。

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