
テレビや雑誌で「おむすび」の具材特集をやると、だいたい「ツナマヨ」が1番人気になりますね。確かに、口の中でマヨネーズとツナの油分が米粒を一つ一つ包み込み、海苔の風味と絶妙なバランスを醸し出しますので、相性は抜群です。でも実はこれ、脳内伝達物質に関する書籍をいくつか読むと、人気の秘密が理論的に解明できてしまうのです。
「悪魔のおむすび」が一時流行りましたよね、「天むす」も同じ原理になりますが、美味しさの秘密は、脳内伝達系と深い関係にあることに注目できます。「〇〇産のコシヒカリが最適」と言った素材の話ではなく、美味しく感じてしまう脳内の錯覚をうまく利用した販売戦略なのでしょう。よって詳細に分析してみようと思います。
まず、ハンバーグ、ステーキ、ラーメン、カレー、ピザ、パン、チョコレートなどなど、これら全てに含まれているのが油脂分です。たぶん、どれも嫌いな人はいないはずです。むしろ、好きと答える人の方が多いのではないでしょうか。この油脂分は、「βエンドルフィン」という物質が脳内で分泌されるきっかけを作ります。この物質は鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などが得られるために別名「脳内麻薬」ともいわれています。食べ物を口に入れると、脳内ではまず「延髄孤束核(えんずいこそくかく)」に信号が送られ、「偏桃体(へんとうたい)」で美味しさの判断をします。そして、「側坐核(そくざかく)」へ、その旨さの基準レベルが送られるのですが、その信号が強ければドーパミンの分泌が始まり、快感と認識されます。そして視床下部から摂食中枢を刺激されもっと欲しくなる、「病みつき」になるというメカニズムです。俗に報酬系の成分ともいわれています。舌ではなく、脳への刺激で「旨い」「美味しい」という認識になるのでしょう。
では、なぜ油が病みつきになるかというと、これは人類の飢餓の歴史が関係しているそうです。人類史上、現在のように食べ物に困らない生活が送れるようになったのはつい最近です。それまでは飢えとの戦いで、食事に何時ありつけるか分からない体は、エネルギーをため込み、備えるという細胞の記憶が残っているために、蓄積するという行為に至るそうです。その報酬系と言われている3大要素が、砂糖、油脂、うまみ成分。それぞれが「病みつき」信号を脳へ誘発するそうです。
高揚感が得られる物質を含んだ食材を過剰に摂取した場合、脳への影響が懸念されます。特に報酬系を常用すると、脳がオーバーヒート気味になります。結果、気性が安定せずにイライラしたり、躁鬱を引き起こしたりする原因にもなります。逆に脳を安定化ささる効果を持つのがギャバです。このギャバはお米の胚芽に含まれているので、精神的なバランスを保つのに有効です。最近では安眠用のサプリとして、この成分が使われていますね。
当店で「ツナマヨおむすび」ありますか。と尋ねられることがあるのですが、販売しない理由はここにあります。食べる人の体だけではなく精神的な健康面を考えると、美味しくても、脳や体にいい影響を与えるのか、そうではないのか判断し営業しています。よく「たらこ」のおむすびありますか、とも尋ねられることがあるのですが、着色料や保存料、化学調味料といった添加物がどの程度使われているのかわからないので使いません。明太子も同じです。
それぞれのお店にはコンセプトがあるので、良し悪しの判断は消費者にゆだねられると思います。ただ、体が欲するのか、脳が欲するのかは知っておいた方がいいと思います。
それは、ダイエットなど無縁で、心の安定と、健康的な日常を送る大前提になると考えているからです。
Profile

金井一浩(かないかずひろ)
吉祥寺生まれ吉祥寺育ち。
高校卒業後、大学に進学せず1990年証券会社へ入社しバブル崩壊を肌で経験。阪神淡路大震災の時に感じた利益優先のマーケットに疑問を感じこの年に退社。フリーター業で生計を立てるも、規制緩和の時代変化に対応できていない実家の米屋に危機感を覚え家業を継ぐことに。その後、お客さんに目が向いていないお米業界の古い体質や流通から脱するために1年半の通信教育を経て業界で一番難しいといされる「お米アドバイザー」を取得、後に第1回環境社会検定試験に合格し、フード&ヘルス研究所主催の小児食生活アドバイザーに認定される。単に美味しさだけではなく環境や健康も考えた生活の中のお米選びをお客様に提案し提供している。現在では本業の他に業界の若い世代が集まる「和日米会」の会長を務め、「フリースクール上田学園」にて日本食文化の講師を担当する。
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