
いま29年産米の収穫期を迎えております。そして今年の米価は作柄に関係なく産地品種によっては2年前に比べ2割以上も高騰しています。もともとお米の価格は味に比例せず、新潟県魚沼産のように有名産地や有名ブランド、銘柄で価格が決まります。需給バランスの影響は若干ありますが、そもそもお米は年々消費量が落ち込み、市場に溢れている状態なので不作にならない限り供給過剰になります。
先日、新潟県小国町のJA柏崎へ今年の作柄確認と商談に行ってきました。8月の長雨と低温が続いたため生育が未熟です。平年以下の収量になると予想されます。茨城県や千葉県などの一部は8月中旬から9月上旬にやっと稲刈りが始まり市場へ新米が出荷されます。新潟県小国町のコシヒカリも10月上旬頃にずれこみます。今年は全国的に天候不順による刈り遅れが目立っています。
稲刈りが終わると、籾を一定の水分まで乾燥させます。結果、1年間安定した食味が確保されます。しっかり乾燥されていないお米は翌年頃から劣化が進みカビの原因になります。最近の新米は瑞々しさが少ないと思われたら保存技術が進歩したと思って下さい。乾燥が終わると籾摺り(脱穀)し玄米を袋詰めします。そして出荷前に品質検査を受けます。検査内容は味ではなく見た目と水分値です。粒ぞろいと一定の水分値に達していると良品質順に1等、2等、3等となります。よほどの天候不順で生育がままならない年でないと3等はめったに出ません。1等と2等では価格の差がありますから。生産者の収入に直接影響してくる要因となります。
ではどうやって価格を決めているのか、一般的な商品は需要と供給のバランスで市場価格が決まるのですが、お米の場合大方の価格を決定する指標が全国にある農協の概算金(仮渡価格)。収穫されたお米を生産者が農協に持ち込み、検査を受けて仮価格を決定。その代金が生産者へ一括で支払われるというシステムです。年が明けて、お米が売れなくて価格が下がったり、何かの要因で取引価格が上がったりした時に買い取り価格を見直し相殺します。
しかしこの概算金があまりにも安いと少しでも高く売りたい農家さんは違うルートで販売し始めます。集荷率が下がった農協は一定量を確保するため高めの価格提示をしたのが今年の29年産米。それに加えて飼料用米への転用が補助金対象となり、一般に販売するより利益が出るため飯米価格上昇のきっかけにもなっています。
生産者が持続可能な農業経営するには生産費を割らない価格での取引が必要です。よって販売価格の上昇はやむを得ないのですが、スーパーやディスカウント、公的機関(学校や病院)や飲食店に納品されるお米の価格が生産費より安い価格で販売、納品されているのが現状です。
理想ですが、生産者はこだわり米だけではなく、収穫量が多く経費の掛からない低価格米も生産や販売先の厳選、小売は生産現場をないがしろにしない価格帯で販売し、消費者は一時の利益ではなく日本の国土保全に貢献しているという意識を持てば、瑞穂の国という日本文化を絶やすことなく子々孫々へつなげていけるのではないでしょうか。ただ現在の流通小売システムを再構築するのは難しいと感じています。
Profile

金井一浩(かないかずひろ)
吉祥寺生まれ吉祥寺育ち。
高校卒業後、大学に進学せず1990年証券会社へ入社しバブル崩壊を肌で経験。阪神淡路大震災の時に感じた利益優先のマーケットに疑問を感じこの年に退社。フリーター業で生計を立てるも、規制緩和の時代変化に対応できていない実家の米屋に危機感を覚え家業を継ぐことに。その後、お客さんに目が向いていないお米業界の古い体質や流通から脱するために1年半の通信教育を経て業界で一番難しいといされる「お米アドバイザー」を取得、後に第1回環境社会検定試験に合格し、フード&ヘルス研究所主催の小児食生活アドバイザーに認定される。単に美味しさだけではなく環境や健康も考えた生活の中のお米選びをお客様に提案し提供している。現在では本業の他に業界の若い世代が集まる「和日米会」の会長を務め、「フリースクール上田学園」にて日本食文化の講師を担当する。
» 金井米穀店