エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする

2020年6月30日
「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」

小さい頃の夢は
いくつかあった。
一つは
外部からエネルギーをうけることなく
永久に動き続ける機械
「永久機関」を作り出すこと。
もう一つは
「夢を録画出来る機械」をつくることだ。
「永久機関」は
(もっともそう呼ぶことは大人になってから知ったのだが)
確か磁石とボールを使った方法を発案し、ノートにひたすら書き込んでいた。
小学生の自分の中では、理論としては完璧なのに
実際にやるとどうしてもうまくいかないのかが悩みだった。
一方の「夢を録画出来る機械」
これは全く方法がわからなかった。
取り敢えずVHSの空きテープとデッキが必要なのはわかるが
果たしてその先どんなコードを頭のどこに挿せばよいのか...
(耳や鼻ではどうにもならないことは、ちゃんと気づいていた)
自分が大人になり知識を蓄えるのを待つしかなかった。
少なくとも、本棚のブリタニカ百科事典全巻の中の知識を総動員してもまだ、足りやしなかった。
何故夢を録画したいか、はとてもシンプルで
現実より夜見る夢のほうが圧倒的に楽しいからだ。
僕はずっと、現実世界よりも
非現実世界のほうに重心をかけながら生きてきた。
学校も家庭も文句なしで楽しかったし
充分満たされていた。
でも、例えばケストナーのような物語はたまに身近におきたけれど
佐藤さとるのような物語や
ナルニア国みたいな物語は
そっと目をつぶり、非現実世界の側に重心をかけないと、僕の前には出現しなかった。
起きているときに空想を膨らませるのは当然楽しかったし、日常の半分以上をそうやって過ごしていたが
夜勝手に頭の中で繰り広げられる物語はそりゃもう格別だ。
予想もつかない展開だし、主人公は自分だし、ある程度ならコントロール出来るし、
そして何というか労力がいらずお手軽だった。
だって眠りさえすれば、毎晩毎晩違う物語が見られるなんて
素晴らしいシステムではないか。
「夢」
ただ、残念ながら起きてしばらくすると、油断している間に忘れてしまう。
こいつを録画出来たら最高だぞ
小学生の僕はいつも思っていた。
そしてこちらはエルシー・ピドック
彼女は、目をつぶった夢の中で
妖精たちからなわとびの秘術を学んだ少女だ。

「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」

『エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする』
エリナー・ファージョン 作
シャーロット・ヴォーグ 絵
石井桃子 訳
岩波書店

「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」

エルシー・ピドックはケーバーン山の麓に生まれます。
赤ん坊だったエルシーは、なわとびのピタパタいう音と、何だかぶつぶつがやがや言う声を聞いて育ちます。
やがてそのぶつぶつがやがやが、このような言葉に変わるのです。
「アンディ、スパンディ、さとうのキャンディ、アマンド入りのあめんぼう!」
なわとびを飛ぶ際の節のついた歌。
この、赤ん坊の中でぶつぶつがやがやだった訳の分からない言葉が、意味のあるものに変わる
その描写が流石のエリナー・ファージョン。
日本の名だたる児童文学作家が、影響を受けた作品にファージョンの『ムギと王さま』をあげるのも、こういうところからなのでしょう。
3歳でいよいよなわとびを手にしたエルシーは、あっという間に辺りいちばんのなわとび名人に。
そして噂はケーバーン山の妖精のもとにも届きます。
眠っているエルシーの夢の中に、妖精の呼び声が届き、エルシーは目をつぶったまま窓から出て、ケーバーン山で妖精たちとなわとび対決をします。
妖精に認められたエルシーは、師匠のもとで年12回、三日月の晩、夢の中であらゆるなわとびの秘術を学ぶのですが、
なんと
家の鍵穴をすり抜けたり
蜘蛛の糸に着地しても露一つ落ちなかったというから相当な腕です。
やがてなわとびのつながエルシーには短くなり、更に月日が経ち
なわとびをする年頃をもすぎ
エルシー・ピドックの名前が、もはや寓話の中の登場人物となるくらい
長い長い月日が経った頃
荘園に、新しい領主がやって来ます。
あろう事か
領主はケーバーン山を立ち入り禁止にし
大きな工場を建てる計画を発表します。
山のなわとび場に迫った危機に
村人と
妖精たち
そして、そう
今や109歳となった伝説のなわとび名人
エルシー・ピドックが立ち上がるのです。
まるで「だれも知らない小さな国」のような展開!
エルシーが登場し、その手に短いつながが握られているのを妖精たちが見たシーンには
思わず鳥肌が立ちます。

エリナー・ファージョンはイギリスの作家で
ケーバーン山は実際に存在します。
写真でしか見たことはないですが、一面に野の花が咲き、風が通り抜け
ごろごろ転がったり
シートを広げてお昼を食べたり
勿論なわとびしたりがとても気持ち良さそうな山です。
エルシーのなわとびのように軽快に言葉を紡ぐ
魔術師エリナー・ファージョンの名作
『エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする』
フランソワ・バチスト氏がご紹介致しました。
因みにこの絵本
カバーを剥がしてみると
また素敵な妖精たちが隠れています。
普段は見えない彼らの姿
あなたなら
発見できるかもしれません

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
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