たぷの里

2019年10月25日
「たぷの里」

よい絵本とは何か
感覚ではわかるものの
言葉にするのはなかなか難しい
絵本は誰のものか
これは簡単
絵本は子どものものだ
そう
絵本は子どものものだ
われわれがだれを相手にしているか
たまにきちんと思い出すことは
とても大事なことだ
かれらは
まだ何にも飽きたり
限界を感じたりしていない
世の中のすべてのものが
新しくて
不思議で
惹きつけてやまない存在である
風も雨も夜も植物も
全部が不思議
何も当たり前じゃない
そんな毎日を生きている
絵本も
おもちゃも
やっぱりそういう
かれらが何を面白がるかを大切にしていることが
よいものを生み出す条件な気がする

この夏
よい絵本と出会った
「たぷの里」
藤岡拓太郎 作、絵
ナナロク社

なんだか変な名前の絵本の原画展があるとの噂を聞きつけ
灼熱の中、お店の近くにあるブルーシープさんに原画展を観に行った
藤岡拓太郎さん自体は、SNSで流れて来る漫画をたまに目にしていた
僕はダンサーなので
例えば誰かの踊りで、曲の中にはずっと流れていたのに僕には聞こえていなかったベースの音をふいにバインととって踊られたりすると
うわっやられた
となる
そこにその音あったか!と
藤岡さんはそんな
そこに目線を向けるか
という漫画家さんで
おじさんとサラリーマン2人のストーリーだと思ったら
おじさんの手に下げていた祭りの金魚がオチだったり
無意識をふいに意識させ目の前にグイと差し出されるような
ドキッとする目線をもった漫画家さんだ
けれども
その漫画と「絵本」というのがあまり結びつかず
果たしていかなるものかとワクワクしながら
娘の手を引き急な階段を上がっていった
いきなり目に飛び込んで来るのは
コンクリートの壁に貼られた
巨大なたぷの里
読めばわかるが
小さな子ならもれなく「たぷ」が実際に体感できるようになっている

「たぷの里」

原画と過去の漫画などが展示されている中
机の上にバラっと置いてあったのが
藤岡さんが影響を受けた絵本たち
まず長新太がたくさん
そして片山健
井上洋介
100%Orange
nakabanさんもあったと思う
もし新刊の絵本屋をやるとしたら必ず棚に置いておきたい
子どもと正面から向き合った絵本が積み重なっている
よいセレクト
というよりはここに選ばれた絵本と
加えなかった絵本を思い
そうか
ここをエキスとするのか
と納得させられる
この濃厚なセレクトがあるということは
その外側にも藤岡さんが読んだ無数の絵本があるはずなのだ
絵本の古本屋としてはかなり嬉しい景色だった
ラーメンマニアが厨房のあちこちを見ながらラーメンを待つように
会場をくまなく見ているうち、場に飽きてしまった2歳児を抱え
『たぷの里』を片手に再び灼熱のアスファルトを歩き帰宅する

読んでみようじゃないか
たぷの里
ひらくといきなり長新太さんの絵が現れる
山、広い大地、斜めに走る1本の道
そう
あの長さんの絵
そしてたぷの里
リズム感がよい
展開がとても音楽的だ
さらっと読んでも面白いが
どういう間で、誰に読もうか考えながら
実際に声に出して読むと思う
僕が好きなのは「きこきこきこ」
と自転車が現れるシーン
ここで読みに勢いがつく
散歩道にあるちょっとした段差みたいに
とてもシンプルな仕掛けだけど
子どもが楽しいこと
絵本に必要なこと
ちゃんとおさえている
そして子どもとは誰か
の答えもちゃんと裏に書かれていた
「対象年齢 赤ちゃんから君まで」
あなどれない方だ
正直、タレントや漫画家さんや
◯◯が絵本を発売!
という作品がよかったためしはない
とても残念だが
子どもにむけたものと
子どもっぽいものの区別がついていないことが殆どだ
(あ、coccoさんは好きだったな)
久しぶりに
いわゆる絵本の外側の世界からやってきて
(変な言い方だな)
絵本というものと正面から取り組み
意識的だろうと無意識だろうと
ちゃんと研究し
みんなに笑顔をくれる作家さんが現れたこと
とても嬉しく思う
おかしな言い方だが
これはちゃんと絵本だ
僕の大好きな『ゆうびんやのくまさん』や
『るるるるる』の隣りに置いても違和感のない
ちゃんとした絵本

さて
今回は擬音だったり
繰り返しだったり
生活に基づいていたり
親しみやすい絵本の条件をしっかり踏まえた一作目らしいしっかりとした絵本だったので
この先長さんや井上洋介さんみたいに
読んでいて思わず仰反るような
自由な作品も出してくれるかもしれない
と勝手に期待している

と、これだけ壮大に書いたけれど
いざ読めばなんのことはない
たかが絵本
されど絵本で
さっと読めてクスリとする
そんなとてもよい絵本ですよ
おススメです
今回は赤ちゃんでも読める絵本
『たぷの里』をご紹介しました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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