HAMUPIPOKE

2019年6月25日
「HAMUPIPOKE」

5月にチェコとハンガリーに旅に出て
500冊の絵本を買って来た
今月はそのお話をしようと思う

きっかけ

昨年だったろうか、高円寺の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」さんに
ロシア絵本の展示を見に行った
ロシア絵本とはなんとカッコいいものかとほぅっとため息をついた
その翌月
今度は同店にチェコ絵本の展示を見に行った
同じように期待をして足を運んだのだが
正直、ズラリと並んだ本の表紙を見ても、いまいちピンと来なかった
ロシア絵本と比べて
どうも可愛らしさが先に来てしまう気がする
あのピリッとした鋭さがなく
淡くやわらかい印象を受けた
帰りの電車の中、そうか、僕はチェコではないな
と勝手に結論付けた
それからお店や市場でお客さんや同業者とチェコ絵本の話題になる度
「僕はチェコ絵本はあまりなんですよねー」
なんてよく話していた
けれども
そうやって話せば話すほど
何でだろう
何が違うのだろう
はたして勝手に判断してよいのか
いや苦手という前にもっとちゃんと向き合ってみたらどうか
絵本屋としてその姿勢はいかがなものか
10冊20冊見て何をわかった気になっているのだ

少女漫画によくある、出会い方がイマイチな2人が喧嘩する度に徐々に惹かれ合う
あの典型的な展開のように
気づいたら毎日チェコ絵本のことばかり考えるようになっていた
その結果
ええい
行ってしまえ!と
思い切ってお店を休み
10日間のヨーロッパ絵本探しの旅に出たのである

ハンガリー

さて、現実的に考えると
せっかくヨーロッパまで行くので
チェコの前にまず、「オールドブックストリート」という古本屋通りのあるブタペストに向かうことにした
一つの通りに古本屋が7、8店軒を連ねていて、土地勘が無くても古本屋巡りが出来る素晴らしい場所
僕のお店は
ただでさえ狭い店内に和洋合わせて4000冊近い絵本がぎゅうぎゅう詰めになっている
ここに更にチェコやハンガリーの絵本を加えたら大変なことになる
わかっちゃいたことだ
わかっちゃいたことだが
古本屋で絵本を前にしてしまったらもうおしまい
カチッという音とともにスイッチが入ってしまう
あとは簡単
あぁ、レイクカーロイだ
うわ、カスヤノシュだ!
とやっている内に、ふと両手を見ると40冊ほどを抱えている
今回とった宿は古本屋通りのど真ん中のアパートメント
右も左も古本屋
絵本をごっそり抱えてひょいと戻り
手ぶらになって次の古本屋へ
また1時間以上かけて絵本を片っ端から引き出し
長い長いレシートを出してもらいアパートへ戻る
そんなことを何度も繰り返し、初日から机の上には随分と立派な山脈が築かれていた
アパートメントの前にある露店の花屋さんのおばさまは
見慣れない東洋人の不思議な行動を、怪訝な顔で見ていた
さあ
買った後
ここからがお楽しみ時間
夜はその山脈を切り崩しながら、自分の美意識のみを頼りに選んだ絵本たちを、iPadをポチポチやりながら調べる
そうか
この素敵なイラストの方はガールエヴァというのか
おや
これもガールエヴァだ
アダムヴュルツはさっきも見たぞ!
と点が少しずつ線になってゆく
面白いもので、直感のみで選んでいても不思議と
同じ作家さんや、著名なイラストレーターさんの絵本が集まっていて
5年間絵本の古本屋をやってきた自分の目はどうやらそこまで間違えてはいなかったようだぞと、アパートメントに散らばるハンガリーの絵本の中で1人ニヤニヤする
そしてこの夜にして初めて
苦戦していたハンガリー語の本の見方を知る
何せハンガリー語は全く手掛かりがない
songは歌
pictureは絵だな
とわかる英語と違って
一言もわからないのがハンガリー語
その日のノートにはこう書かれている
kiado-出版社
kepeket-写真
rajzaival-図面
イラストレーターの名前がどこに書かれているのか
どの言葉がそれを表すのか
基本的な情報をやっと把握し
明日以降のために自分をアップデートさせてゆく
これを3日間繰り返し
少しずつ己をレベルアップさせながら
なんとか200冊ほどの絵本を手に入れる
楽しいのはここまで
ここからはザ・肉体労働
本は重い
路面電車やバスを駆使しながらカートに乗せた段ボールを何度も郵便局まで運ぶ
カートの右車輪は旅半ばにして壊れ
斜めに傾いた荷物のバランスをとり
腕をプルプル震わせながら
観光客で溢れるブタペストを1人
汗だくで歩く
勿論
送料は4桁を軽く超える
とまあ、そんなこんなでハンガリーから集めて来た絵本から
今月は1978年のこちらをご紹介

『HAMUPIPOKE』
HANNA JANUSZEWSKA

何を隠そうこちらはずばり
シンデレラ
全くハンガリー語が読めなくとも
挿し絵を見ればお馴染みのシーン
かぼちゃの馬車にガラスの靴
そもそも
絵だけでお話が読める
それこそが優れた絵本の条件
表紙をご覧下さい
ぼろぼろの洋服を着て
隅のほうに座る灰かぶり
色のない鳥
色のない食器
彼女がどんな境遇にあるのか
この絵を見ればちゃんと伝わってきます
では暗い絵本なのか?
いいえ、ご安心を
まずはハンガリー絵本のお楽しみの一つ
見開きの美しさ
こちらはストライプの背景に切手のような小窓が並び
馬車や王冠、ガラスの靴など
物語を彩る小物たちが配置されています
流石の東欧のデザイン
これだけのために集められる方もいるほどです
そして本編
洋書特有のザラリとした手触りの紙にのったインク
そう、その発色が素晴らしいです
たまに日本で訳された絵本の原書を読むと
その色のあまりの違いに驚くのですが
こちらの色もまた美しい
金平糖のような空の雲
軽やかなレースカーテン
深い色の魔女のガウン
勿論シンデレラの青いドレス
更に極め付けは
王子と会った後のページの彼女の表情!
頰には赤みがさし
唇にはつや
目には生きる光が灯ります
手には淡いピンクの一輪の花
なんと食器たちまで色鮮やかに輝いているのです
文字がまだ読めなかった幼い頃
絵本を開いてまず目が行くのは絵でした
その絵が
頭の中で動き
お話が展開していったのです
一文字もわからないからこそ
そんなあの頃に帰れる絵本
目が楽しい
指が楽しい
工芸品のように見ても触っても楽しめる絵本
中央ヨーロッパ
ハンガリーより
「HAMUPIPOKE」
フランソワ・バチスト氏がご紹介致しました
チェコのお話はまた今度!

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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