ぼくは

2018年12月25日
「ぼくは」

突然だが
僕はその昔
臨死体験?のようなものをしたことがある
あれは20代中頃
その日もいつものように
友人がアルバイトをしていた原宿の服屋さんで閉店後にワイワイしていた
大体集まっては最近聴いた音楽の話や面白い映像の話を飽きることなくしてほど良き時間になったらクラブに繰り出したりしていたと思う
YouTubeなどない時代
それぞれがそれぞれ独自のルートで集めた海外の映像作品や映画のワンシーン
レコード屋でみつけた最新の音楽やDJ に頼み込んで教えてもらった曲など
20代の尖ったアンテナに引っかかった様々なものを持ち寄っては
仲間内でシェアしていた
メディアサーカスのショー、モンティパイソン、ninja tuneやmo'waxレーベルの音楽、ミシェルゴンドリーの映像など
自分たちもこれに負けない何かを生み出すんだ!
とひたすらインプットを繰り返していた時代
その夜流れていたのは、比較的bpmのはやいハウスだったと思う
狭いところが苦手な僕は
その日の人口密度と速いテンポの音楽になんだかだんだん苦しくなって来て
ちょっとした酸欠状態になっていた
少しずつ体勢を崩して行き
やがて床にへたり込んで
ああもう音楽はもういらない!静かにしてくれ!
と思ったその瞬間

僕は散った
ホウセンカの種が飛び散るように
ビリヤードの白い玉に突かれたように
水滸伝の始まりのように
僕は散って

死んだ
と思ったのだ
風船の中に大量に詰め込んでいたBB弾が弾け飛んだような感覚
四方八方に自分が粒のようになって飛び散ってゆく
ここに自分はいなくて
代わりにあそこにもあそこにも
あんなところにまで自分がいる

ほんの一瞬だった
粒がカラダに戻って
僕は我に返り
何ごともなかったかのようにその日もまたクラブに繰り出したのだと思う

けれども
そのことをきっかけに
僕の死生観は徐々に変化していった
人は粒の集合体で
これがカラダから飛び散ると死んでしまう
ただその粒の一つはまた別の粒たちと集まって
また新たな命になる
そう考えてゆくと
葉っぱ1枚見ても
そうかこの中には自分の粒が入っているのかと思い
すれ違う犬を見ても
この中にも自分の粒が入っている
ああなんて可愛い犬!
そう思うようになる
(今は流石にそこまで極端には考えていません)
それがある程度言葉で説明できる形になったのはもう少し先
クッキーを食べているときだった
多分当時好きだったチョコチップクッキーかオレオ
クッキーという形のあるものが
噛み砕かれて体の中に入る
テーブルの上にはクッキーはなくなる
けれども
クッキーは僕の体の中にちゃんとある
あと数時間したら
あるものは体に吸収され
またあるものは体の外に出され
土に還る
クッキーはなくなる
でも
なくなったのはクッキーという名前で呼ばれていた形であり
本当にこの世から姿を消してしまったものはない
形が変わるだけで
ちゃんとこの世界のどこかに存在している
空っぽになった手のひらを眺めながら
そんなことを考えていた

あれから10年以上の月日が流れ
その間に親しい人をなくしたり
植物を枯らしたり
お気に入りのカップを割ったりもした
この世から本当になくなるものはないなんて理屈をこねても
悲しいときは悲しいし
涙は出るし
喪失感は理屈ではちっとも癒されはしない
けれどもあの日に体験から得たあの感覚は
今も僕の物の考え方の芯になっている
そして先日
この絵本と出会ったのだ

「ぼくは」
藤野可緒 作
高畠純 絵
フレーベル館

芥川賞受賞作家と愉快な絵描きさんのコラボである
内容は
まんま僕が考えていたクッキーの話
牛乳も
パンも
切り分けられてりんごも
食べられていなくなるけれど
あーたべないでー
ぼくがなくなる!
あれ?
あれあれ?
ちゃんといる
それが高畠さんのわかりやすい絵で伝えられている
そしてこの絵本の素晴らしいのは
パンや牛乳のようにわかりやすく「形あるもの」だけでなく
最後にそう
絵本についても触れていること
手法は少し極端で
もう少し他の表現でもよかったのではないかとも思うけれど
うん
読んだものもちゃんとなくならないで
なかにあるんだ
ということ
しっかり描いてくれている

いのちについての考え方
世の中に沢山あってどれが正しいとかではない
その中で
こんな考え方もあるよ
と数ページで教えてくれる
とてもシンプルな絵本
対象年齢は4歳からと書いてある
そう
4歳のキミでも
40歳のキミでも
きっと何かは感じる
そういった一冊
「ぼくは」
フランソワ・バチスト氏がご紹介いたしました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

  • 首根っこを押さえるといいますが。

    by 中村 滋 on 2019年1月 9日
    これからが一年で最も寒い季節です。防寒といえば、ダウン、フリース、発熱下着が街着でも定着しました。これに付け加えるとしたら、手袋、帽子、そしてマフラーです。中でも首回りが一番の押さえどころというこ
  • ぼくは

    by 冨樫 チト on 2018年12月25日
    突然だが 僕はその昔 臨死体験?のようなものをしたことがある あれは20代中頃 その日もいつものように 友人がアルバイトをしていた原宿の服屋さんで閉店後にワイワイしていた 大体集まっては最近聴い
  • 南インド料理を食べに行く

    by 石黒 健治 on 2018年12月19日
     先月28日、インドのモディ首相が来日、安倍首相は軽井沢の自分の別荘に招いて夕食会を開いたという。  メニューは何だったのだろう。カレーも出たのだろうか。インド人は365日3食すべてカレーを
  • 自然派ワインの造り手テスタロンガ

    by 竹之内 一行 on 2018年11月27日
    南アフリカで抜群にうまいナチュラルワインを造るテスタロンガ! テスタロンガはクレッグとカーラのご夫婦でワインを造る。 ドメーヌ(蔵)はスワートランドという地区の中でも山奥にぽつんとあり犬3匹と
  • ネオニコチノイドという殺虫剤

    by 金井 一浩 on 2018年11月15日
    新潟県魚沼地区でお米を栽培している農家さんの田んぼで異変が起きました。ある日大切に飼育していたタガメ80匹が一晩で全滅してしまったそうです。何が起きたのか困惑しながらいろいろと調べていたらニオネコ
  • 「定説を覆す」が肝心、こんな日用品でも

    by 中村 滋 on 2018年11月 5日
    最近気になった著名人の言葉。まず、あの樹木希林さんです。「驕らず、人と比べず、面白がって生きればいい」。名言ですが、成功した人が言える言葉です。彼女らしいのはこっちです。「ピンチピンチ、チャンスチャ
  • はしれ!かもつたちのぎょうれつ

    by 冨樫 チト on 2018年10月25日
    「絵本の中には大人でもハッとするような真理のようなものが描かれていることがありますよね」絵本の古本屋をやっていて、たまに言われることだ子ども向けのお話なのに大人が読んでもグッとくるいわゆる「深い」絵本
  • 輝く青い海は何処へ行った 沖縄

    by 石黒 健治 on 2018年10月16日
      写真を勉強する会の真眼塾の夏期合宿は、沖縄で、8月10日午後、現地ホテルに集合と決まっていた。それぞれの仕事や家庭の都合にあわせて出発も滞在も自由とし、10日を挟む前後3日間を撮影合宿に当て
  • 自然派ワインの造り手ジャン・マルク・ラフ...

    by 竹之内 一行 on 2018年9月25日
    ボージョレ・ヌーヴォー2018 収穫速報! 9月に入ってボージョレ・ヌーヴォーの収穫が始まりました! 毎年美味しいヌーヴォーを造ってくれるジャン・マルク・ラフォレの収穫速報をお届けいたします!
  • We are ready for ENG...

    by 金井 一浩 on 2018年9月15日
    先日、新宿まで備品の買い出しに行きました。日中ともあって夜の新宿とは少し違う落ち着いた雰囲気の繁華街、買い物客が行きかう風景が目に映ります。しかし行き交う人たちを眺めていると異国のセンスで着こなす
  • 使い道が色々ある手動ポンプ式シャワー

    by 中村 滋 on 2018年9月 3日
    最近の車の塗装、というかコーティングは優れていて、1年や2年はワックス掛け不要といいます。つまり水掛けだけでいいと。たしかに土砂降りの雨のあと車はピカピカになります。というわけで、ガススタンドで
  • ピッピ南の島へ

    by 冨樫 チト on 2018年8月28日
    「ピッピ南の島へ」 リンドグレーン 作 大塚勇三 訳 小学生の頃の友だち 中学生で聴いた音楽 帰り道に買った駄菓子 友だちも音楽も駄菓子も あの感覚はあの時にしか味わえない 若い時に旅をしなけ
  • 鎮魂と再生――ワルシャワから広島・長崎ま...

    by 石黒 健治 on 2018年8月21日
     東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式のチーフ・エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任した野村萬斎さんは、記者会見で、式典のコンセプトについて「"鎮魂と再生"の精神を生
  • 自然派ワインの造り手パルティーダ クレウ...

    by 竹之内 一行 on 2018年7月27日
    イタリア人がスペインで造るフランス的ワイン!? スペイン北部カタルーニャ地方の沿岸部、タラゴーナから東北に30km。 ボナストレ村でとびっっきりのピュアでナチュラルなワインを造る男がいた! パルテ
  • 環境保護と農業とビジネスの関係

    by 金井 一浩 on 2018年7月15日
    前回はお米屋さんの経営状況について書きましたが、今回は農業経営を考えてみたいと思います。 俗に農業、農家というと一律に生産物を栽培する第一次産業をイメージすると思います。 しかし農業と言っても
  • 日本人のデザインセンスは落ちているのか?

    by 中村 滋 on 2018年7月 6日
    テニスの錦織圭が着るテニスウェア、センス悪いです。2020東京オリンピックのボランティア制服も、最初も今もひどい(1964時の選手ウェアは美しい、ポスターも)。TV情報・ニュース番組の背景を一度注視
  • ぬまばばさまのさけづくり

    by 冨樫 チト on 2018年6月27日
    かけただけでダンスが3割は上手く見える魅惑の髪型ドレッドヘアーをかけるにはそれ専用の美容室を探さなければならなかった時は90年代の終わり僕が仲間や先輩にきいて探し出したのは原宿のブランコ通りにあっ
  • [1968] いちご白書をもう一度

    by 石黒 健治 on 2018年6月15日
     日大事件がまだ終わらない。たかがアメフット部の出来事だったはずが、学生や教職員が発言を始めて、社会的な問題になった。1968年の日大紛争に似てきた、と思われる方も多いだろう。理学部教授が
  • 自然派ワインの造り手ドメーヌ・ル・ヴァン...

    by 竹之内 一行 on 2018年5月24日
    先日のワイン試飲会でとんでもないシャブリを発見! 見たこともないラベルのワインを何気なく口にしたら衝撃の旨さ!輸入元の方に聞いてみると2014年が初ヴィンテージの新しい生産者とのこと。 早速買え
  • なぜお米屋さんは廃業していくのか?

    by 金井 一浩 on 2018年5月15日
    パン屋さんがオープンした。美容室に変わった。吉祥寺では当たり前の光景ですがお米屋さんがオープンした!という話は聞いた事がありません。これは吉祥寺に限った話ではなく日本全国どこでも同じ現象だと思い
1

Homeに戻る