「すべるぞ すべるぞ どこまでも」

2015年7月23日
「すべるぞ すべるぞ どこまでも」

すべるぞ すべるぞ どこまでも
カトリオナ・スミス/レイ・スミス作
今江祥智 訳
ほるぷ出版

たまにこんな夢を見る
長い長い階段を上っている
上を見上げると
どうやらそれは雲の先まで続いている
やがて雲を抜け
あと一歩で宇宙の入り口に足をかける
という瞬間
足が空を踏み
真っ逆さまに落ちていく
そしてお約束のように
地面にぶつかるその直前に
汗だくになって目覚めるのだ。

想像力の先駆者ウィンザー・マッケイが毎週日曜日にニューヨークヘラルド紙に載せていた漫画
「リトル・ニモ」のような
お約束の展開の夢

本日ご紹介する「すべるぞ すべるぞ どこまでも」
もそんな誰もが一度は見たことのある夢を
鮮やかな色彩と広がりのある構図で描いた
イギリスの作家スミス夫妻の傑作だ

この作品はスミス夫妻の処女作であり、1978年にドイツ児童文学賞を受賞
日本では今江祥智さんにより翻訳され
ほるぷ出版より1982年に出版されている(残念ながら現在は絶版重版未定である)

さて
この「すべるぞ すべるぞ どこまでも」
サル、クマ、ヒツジの縫いぐるみが
赤い梯子をひたすら上って行き
どこまでもどこまでも上って行き
そこから滑り台でまたどこまでもどこまでも滑りおりてくる
ただそれだけのお話である
説明は何もない
そこに梯子があるからのぼる
まるで映画のワンシーンのように表紙でお尻を向けているのが
主役の三匹
ご覧のように昨今のキャラクターのような媚びた可愛らしさは微塵もない
アンティークショップの片隅に佇み
静かに余生を送っているかのような縫いぐるみ
この三匹の縫いぐるみならではの淡々とした言葉少なな台詞によって
お話は展開していく
(よくよく考えれば、縫いぐるみとはそれくらいでよいのだ。たまにポツリと呟く。それが品位のある縫いぐるみというものだ)
黒い縁取りがされたページ
三匹の背景に見下ろされた広大な田園風景
鮮やかな夕日の中に影のみで描かれた梯子
闇の中のヘッドライトに突然照らし出される緑のハイヒール
(これが誰の足かは読んでのお楽しみ)
ウェスアンダーソンの映画のワンシーンのように
様々なカメラアングルで景色が
1ページ毎、静かに、美しく切りとられていく
教訓もない
大きなドラマもない
読んで賢くなれるわけでも
文字が読めるようになるわけで
お行儀がよくなれるわけでも勿論ない
ただ赤い梯子と共に切りとられる美しくセンスに溢れた景色
滑り下りながら流れて行く背景
そして読み終えたあとのほんのすこしの清涼感
絵本として
充分申し分ない作品だ
滑り台は滑り台以上ではない
運動神経を鍛えるために滑るわけでも
社会のルールを学ぶために滑るわけでもない
勿論お腹いっぱいにもならないし
美容の効果だってない
そこに梯子があるから上って
そこに坂があるから滑る
それだけ
それだけだが
気付けばまた
ぐるりと回ってもう一回と
梯子に足をかけているのだ
きっとこの本も
そうなること請け合いの
不思議な魅力を持った作品

本日の一冊
「すべるぞ すべるぞ どこまでも」
フランソワバチスト氏がご紹介いたしました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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