自然派ワインの造り手
「ジョン・シュミット」

2017年1月19日
自然派ワインの造り手 「ジョン・シュミット」

フランス南部スペインとの国境に程近いオード県に世界遺産にも指定されている要塞都市カルカッソンヌがある。フランス南部を訪れるときは必ずといっていいほどこのカルカッソンヌ名物のカスレ(豆やソーゼジ、鴨などを煮込んだもの)を食べるのがお約束になっている。そのカルカッソンヌとナルボンヌ、ペルピニャンを線で結ぶトライアングルゾーンを覆うピレネーの麓の丘陵地帯。その丘陵地帯に広く点在するコルビエールのAOC畑。そのコルビエールの地域に囲まれるように面積わずか2500haしかない小さなアペラシオン、フィトゥーがある。

ジョン・シュミットの畑とカーヴは、地図でカルカッソンヌとペルピニャンを線で結んだ、ちょうど真ん中に位置する、フィトゥーの中心地カスカステル・デ・コルビエール村にある。所有する畑の面積は5ha。フィトゥー一帯の土壌はスレート状のシストだが、ピレネー山脈に連なる断層がいくつも通っているため、断層付近は様々なクリスタルがシストに入り混じり複雑なテロワールを構成する。

気候は地中海性気候で、冬に一定の降雨があるが、夏は日ざしが強く乾燥しやすい。さらに、1年のうち平均200日はピレネーから吹き降ろす強い北風タラモンターニュが乾いた風を運ぶ影響で、夏場は特に日照りになりやすいが、ブドウの病気は繁殖しにくいというメリットがある。またさらに、山を越えるとすぐ裏が地中海のため、海から来る湿った風が極度の水不足を防ぐ役割を果たしている。

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オーナーのジョン・シュミットは学生の時にガーデニングと林業を学び、1998年、学校を卒業後すぐにプロヴァンスのリュベロン地域自然公園内の森林や果樹を管理する仕事に携わっていた。2001年、同じプロヴァンスのゴルド村でレストランを経営していた彼の父が50歳を機にレストランを閉め、マキシム・マニョンと一緒にラングドックのフィトーに移りドメーヌ「マリア・フィタ」を立ち上げる。ジョンも、その時自然公園の仕事をしながらドメーヌの立ち上げに参加し、その翌年の2002年には、自然公園の仕事を辞め正式にドメーヌのメンバーに加わる。ワインづくりの素人だったジョンは、当時ボスだったマキシム・マニョンからヴァン・ナチュールの多くを学び、知識をどんどん吸収していった。

お互いのワインに対する考えの相違から、ジョンの父とマキシムは分裂。彼の父はそのままマリア・フィタを継続し、一方のマキシムは自らのワイナリーを立ち上げマリア・フィタを去った。2005年から、マキシムの代わりに実質畑仕事から醸造まで一手に任されたジョン。2年間は全ての責任を背負って父に尽くしたが、父の目指すワインと彼の目指すワインの根本的な相違がしばしば言い合いや口論となり、2007年、ジョンはついにマリア・フィタを離れ、2003年に自らが手に入れた1haのグルナッシュの畑にのみに専念するようになる。2011年、ジョンは父が畑の作業中トラクターから転落し大けがを負ったことがきっかけで、再びマリア・フィタに戻ってくる。父からマリア・フィタの畑と醸造を管理することを条件に4haの畑を譲り受け、翌年2012年正式に自らのドメーヌを立ち上げる。

BioWine_sub2 ジョン・シュミットは現在5haの畑を一人で管理している。彼の持つブドウは主にグルナッシュ(赤、グリ、白)、リヤドネ・プル(グルナッシュの亜品種)、カリニャン、シラーで、その他マカブー、テレット、アリカントなどが少し混在している畑もある。いずれも樹齢が古く、平均が70年、カリニャンに至っては樹齢140年のそれぞれ個性の異なる7種類のセレクションマサールが今でも健全なブドウの実を生らせる。彼は30匹ほどの羊を飼っていて、冬の草刈りはトラクターを一切使わず、羊たちを放牧し行う。彼のモットーは「多様性」。単一のブドウ畑だけでは病気に対する抗体が弱まるということから、植樹は必ずセレクションマサールの混植で行い、また、かつて自然公園で働いていたころに身につけた接ぎ木の技術を生かし、畑のまわりの雑木に様々な果物の枝を接木し果樹に仕立て、植物の多様性を増やしている。

彼が影響を受けたヴィニョロンは、かつてマリア・フィタで一緒に仕事をしたマキシム・マニョン、そしてグリオットのパトリック。ジョン自身、以前リュベロン地域自然公園内で仕事をしていた時から、すでにビオロジックやビオディナミに興味を持っていたこともあり、マキシム・マニョンが持つ自然派ワインの考え方には素直に受け入れることができたとのこと。一方のグリオットのワインはパリに住む兄の勧めで初めて飲んだ時に感銘を受け、以来グリオットのようなブドウに素直なワインをつくってみたいと思うようになったという。

彼のブドウ栽培の哲学は「多様性」。健全なブドウが育つためには、単一のブドウ畑ではなく、畑のまわりに様々な木や植物など多様性のある環境が必要と説く。「多様性をはぐくむためになるべく人の手を入れない」という考えの下、トラクターは一切使わず、その代わり30匹ほどの羊を畑に放牧する。羊はブドウの木のまわりの雑草を食べ、糞が肥料となり好循環なエコロジーサイクルを生む。また、前職で行っていた植樹の経験を活かし、畑のまわりに生えている雑木に様々な果樹を接木し、鶏や動物などが集まるような環境を整えている。「例えば、私の所有するマメットの畑は、まわりが雑木に囲まれているだけでなく、カリニャンだけでも約7種類のセレクションマサール、そしてアリカントやマカブー、テレットなどが所々に混植されている。樹齢は優に140年を超えるが、いまだに健全で病気にほとんどかからないのは、この見事な多様性に支えられているからだ!」とジョンは言う。

BioWine_sub3ワインの醸造においても、その多様性により育まれた健全なブドウの力を信じ、なるべく人の手を入れないスタイルだ。彼のつくるワインは実際100%モノセパージュと言えるものはなく、何らかの他の品種が混醸されている。キュヴェの中で唯一モノセパージュといえる「マメット」も前述のように7種のカリニャンが入っている。混醸の目的は、ずばりワインに抵抗力をつけること。
これは昔のヴィニョロンたちの知恵なのだそうだ。多様性すなわち色々なセパージュを混ぜ合わせることによって酸化に強いワインができるという先人の教えを彼は醸造に取り入れている。彼曰く「ワインの歴史から見てクローンのモノセパージュでワインがつくられたのはつい最近のこと。昔はなぜ混植が多かったのか?温故知新ではないが、私は先人たちの知恵を信じたい」と。

ジョンのワインはアルコールのボリューム感と力強さがあるが、果実味の質感が滑らかでミネラルも豊富にあり、いわゆる南のワインのスタイルとは一線を画す魅力がある。生産量が少ないワインなのでお目に書かれればラッキー!その際は是非試して頂きたい!



ワイン

●VdF ペー・キャトル 2014(赤)

BioWine_sub4 グルナッシュ60%とグルナッシュの亜品種リヤドネ・プル40%が混植されている、樹齢70年を超すブドウからつくられたワイン。9月4,5日とACフィトゥーの中では最も早く収穫が行われ、酸がしっかりと活かされている!アルコール度数は11%と一般的なACフィトゥーのワインと比べれば格段に低いが、ミネラルはぎっしりと詰まっていて、ヴィエーユ・ヴィーニュの底力なるものを感じる!ほんのりクリスピーで南のワインとは思えないみずみずしさがある!


●VdF フジトゥ 2014(赤)

BioWine_sub5 ジョンの持つシラー以外のブドウが全て混ざっている、樹齢70年〜140年のブドウからつくられたワイン!ブドウの比率的には、グルナッシュとリヤドネ・プルが60%、カリニャンが20%、その他の品種が20%混合されている。醸しはミルフィーユ方式で、その都度収穫したブドウを全房のまま上に重ね合わせていくやり方を取っていて、カリニャンなど後に収穫されたブドウの抽出を柔らかく抑える工夫をしている。ジョンのスタンダードワインだけあって、とにかくワインのバランス良く、飲みごたえのある中身とエレガントな果実味を兼ね備えたワインだ!


●VdF マメット 2014(赤)

BioWine_sub6 ジョンの持つ一番古い樹齢のブドウからつくられたワイン!品種はカリニャンだが、7種類の異なるカリニャンが混植されている理想的な畑で、2014年はスズキの被害に遭ったが、厳格にブドウの選果を行い、抽出を優しく抑えた結果、エレガントでフィネスのある素晴らしいワインができあがった!洗練と野性味が混ざり合った、そうそう出会えないカリニャンだ!


●VdF アベラ 2014(赤)

BioWine_sub7 シラー60%とフジトゥのブドウ40%をブレンドし仕込まれている!ジョン曰く、かつてシラーは、この辺りの地域では、主にワインの色付けのために使用されていたので、北ローヌのような良質なシラーがほとんどなかったようだ。だが、彼の畑は、他とは違い北向きの標高300 mの高い場所にあり、ローヌのようなエレガントさ出せるのが特徴!ワインの味わいは、フィトゥーのシスト土壌らしい骨太なミネラルが骨子にあり、染み入るような果実の旨味がきれいに溶け込んでいる!ジミオのピエールにして、アベラを「ジョンにしかない唯一のアベラシオン(アペラシオン)だ!」と言わしめた逸品だ!(ちなみに、アベラは畑の区画名。ピエールのダジャレは最高!)


●VdF トロワ・ジェー 2014(赤)

BioWine_sub8 3Gは収量に恵まれた年にしかつくらない貴重なワインだ!ワイン名は、3種類のグルナッシュの頭文字を3Gで表している!樹齢70年を超すグルナッシュ、グルナッシュブラン、グルナッシュグリをほぼ均等に全房のまま醸し、3ヶ月半のロングマセラシオンを経たワインはとにかく果実味がふくよかで優しく、染み入るように滑らかな旨味が本当にたまらない!後からじわっと引き締めるキメの細かいタンニンの具合も良く、まさに珠玉のグルナッシュ・ブレンド!


Profile

竹之内 一行(たけのうち かずゆき)

竹之内 一行 (たけのうち かずゆき)

1968年10月生まれ 神奈川県出身。横浜商業高校卒後、レストラン&バーでの修業、
1993年約3週間ヨーロッパへ食べ歩きの旅行をきっかけにワインに興味をもつ。
1996年日本ソムリエ協会ワインアドバイザー修得。その後も都内ワインスクールにてテイスティングの勉強を重ねる。2000年再度渡仏の際に教科書やワインスクールでは、知ることができなかった自然派ワインや地元でしか流通していない真のお宝ワインがあることに興味を持ちはじめ毎年渡仏し現地生産者等と交流を深める。現在、父親が始めた酒販店「エスポアしんかわ」代表。都内等ワイン飲食店にワインの卸や初心者のためのワイン講座等も行っている。

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