種に知的財産権は必要なのか?

2020年7月15日
種に知的財産権は必要なのか?

少し前にSNS上で種苗法改正に伴う賛否がありました。法案は継続審議となりましたが、その法案を読み込むと、いま日本の置かれている種の現状が見えてきます。映画や音楽、書籍なとは知財権が守られていますが、こと種に関しては、在来種という自然界にもともと存在する種と、人工的に自然環境や病気に強く、多収穫や食味向上の目的で改良された種が混在することもあり、開発者の権利という発想が曖昧でした。よって今回の種苗法改正では、「一般品種」(従来広く一般的に栽培されてきた種)はそのまま自家採取して栽培していいよ。ただ、苦労して品種改良した人の種は「登録品種」として権利を明確に守ろうねといった、知的財産権の話なのです。

登録品種と一般品種一覧表pdf 農林水産省ホームぺージより

【とある農家のお話です】

すくすくと育っている稲の中に、
ほかとは明かに様子の違う稲がありました。
収穫を迎える頃になると、通常よりも粒が大きく丈も長く育っていました。
不思議に思った農家さんは、
とりあえず、その稲だけ分けて収穫し、保存しておきました。

お米の花は雌蕊と雄蕊が一緒に存在するので、自家受粉します。
よって、他品種を隣に植えたとしても交雑する事はありえないので、
突然変異としか考えられません。
その種を翌年から育種(数年かけて種を増やすため、優良種を選別していく作業)していきます。

何年もかけて、安定的に収穫できる優良種が増えた結果、
その種だけで安定的にお米が栽培できるようになり、
販売できるまでになりました。

食品表示は法律上「国内産複数原料米」となりますが、
種苗法の関係上、品種登録のハードルは高いために行いませんでした。
ただ、分かりやすく差別化するために、名前を付けて販売しました。

最初は認知度が無く、なかなか売れませんでしたが、
その味の良さと、逸話を知ったファンがだんだんと増えていき、
栽培面積もだんだんと広がっていきました。

そうこうしているうちに、そのお米の人気はうなぎのぼりです。
仲間を募り、徐々に栽培面積が増えていきます。

人気が出ると、一儲けしようと悪意を持った人が出てきます。
その人は、その農家さんに近づき種を入手し、
勝手に商法登録してしまいました。

せっかく知名度が上がってきたのに、その名称は使えません。
その農家さんは裁判で訴えることにしたのですが、
権利を取り戻すことはできませんでした。

さらに、その種は海外に持ち出され外国の企業が特許権を取得。
追い打ちをかけるように、その外国企業から訴えられ、
多額の賠償金を払わされることになりました。

と、ここまではフィクションですが、
実は、元になるケースが実際にあったのです。

日本人は性格的に、とってもいいものを作ってしまいます。
何処よりも、だれよりも、病気に強く、世の中の人が喜んでくれる、優良品種を。
日本の中だけであれば問題が無かった事が、グローバル化が進んだ今、
全く違う価値観を持った海外マーケットも念頭に法整備を急がなければなりません。
狡猾な外国人にとって、権利や規制が曖昧な日本の優良品種は格好の獲物です。

種苗法改正により、種を開発した団体、法人や個人の知財権が明確に守られるようになり、違法コピー、海外持ち出しの規制が強化されるはずでした。
外国資本の穀物メジャーや商社にすべての種の権利を牛耳られるといった陰謀論を唱えている人たちがいましたが、冒頭で書いたように、一般品種と登録品種の種の流通は今までとは変わらないので、自家増殖や在来種の扱いも変わりません。

法案は継続審議となったため、規制が強化されず、種子ブローカーたちが利する結果となってしまいました。そして、適正な対価が得られない育成者や育種者といった技術革新の必要がある開発者の技能が劣化する懸念もあります。

この件に限らず、影響力のある著名人や、それを取り上げるマスコミは、何が正しいのかをよく分析し、検証してから情報発信する義務があると思います。確信犯であれば別ですが。そして情報の受け手は、先入観にとらわれず、情報を自力で分析する癖をつけることが、最大の防御になると思います。

農林水産省のホームページに分かりやすいQ&A がありますので、ご確認ください。
種苗法の一部を改正する法案について 農林水産省ホームページより

Profile

金井一浩(かない かずひろ)

金井一浩(かないかずひろ)

吉祥寺生まれ吉祥寺育ち。
高校卒業後、大学に進学せず1990年証券会社へ入社しバブル崩壊を肌で経験。阪神淡路大震災の時に感じた利益優先のマーケットに疑問を感じこの年に退社。フリーター業で生計を立てるも、規制緩和の時代変化に対応できていない実家の米屋に危機感を覚え家業を継ぐことに。その後、お客さんに目が向いていないお米業界の古い体質や流通から脱するために1年半の通信教育を経て業界で一番難しいといされる「お米アドバイザー」を取得、後に第1回環境社会検定試験に合格し、フード&ヘルス研究所主催の小児食生活アドバイザーに認定される。単に美味しさだけではなく環境や健康も考えた生活の中のお米選びをお客様に提案し提供している。現在では本業の他に業界の若い世代が集まる「和日米会」の会長を務め、「フリースクール上田学園」にて日本食文化の講師を担当する。

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