O JABLONCE

2019年8月27日
「O JABLONCE」

さて、お待たせいたしました
前回のハンガリー編に続き
今回は絵本大国チェコに仕入れの旅に出かけたお話です
ハンガリー編はこちら
http://hesse-web.com/musashino/book/entry-852.html

列車の旅

ハンガリーで大量の絵本を買ったものの
とにかく送料は目玉が三、四個飛び出るくらい高かったため
ダンボール一箱分の絵本はカートに乗せ、気合いでチェコまで運ぶことに
アパートメントをチェックアウトしブタペストの駅へ
これから7時間の列車の旅が始まります
まずは腹ごしらえ、駅の隣の建物
世界一美しいと言われるマクドナルドへ
広ーい芝生の庭とつながっていて、列車を待つ人々が思い思いに芝生にゴロリとして
「何にもない時間」という最高に贅沢な時を過ごすことができます

「O JABLONCE」

「O JABLONCE」

僕たちも小一時間ほどゴロゴロしたり
どこかの国の子どもと遊んだり、隙間の時間を満喫した後
いざヨーロッパを横断する列車に乗り込みます
相変わらずバリアフリーとは程遠い世界
金メダリストの表彰台くらいの高さの乗車口に、ベビーカー、トランク、カートにダンボール
そして娘を乗せ
本当にこの列車であっているのか、違う方向へ行ったらどうしようか
とビクビクしながら、二等車のボックス席に腰を下ろしました
結局、この旅の中でこの列車が一番素敵な時間でした
娘はひたすら寝ていたし
途中乗ってきたスキンヘッドのスロベキア人の巨漢の集団は
席に着くなりウォッカの瓶とコーラをテーブルに並べ
どう見ても刀傷のような腕のかさぶたを剥きながら酒盛りを始めたけれど
気付いたら仲良くなっていて東京の話や友人の結婚の話など
延々と語り合ったし
退屈した5歳くらいの女の子がしょっちゅう席を覗きに来たし
ハンガリーの日記を手帳につけながら
車窓から見えるヨーロッパの田舎風景をぼんやり眺めているうちに
無事チェコに到着しました

「O JABLONCE」

さあホテルへ行く前にまずは郵便局
幸か不幸か、プラハの中央郵便局は0時までやっています
(つまり0時まで仕事が出来てしまうということ)
ものすごく巨大で立派なヨーロッパ建築の建物の中の
小さな小さな小部屋
窓口はたった二つ
英語が通じるのは片方だけ
いつ行ってもそこしか空いていない
他のご立派なスペースは一体何に使用されているのか全く謎な場所
それが中央郵便局
頑なに言葉を話さない守衛さんと
片言での英語のやり取りの局員さんと
拙い英語力の僕とのあたふたしたコミュニュケーションの末
なんとかハンガリーから運んだ絵本たちを日本に送ることに成功
ホテルのチェックインも済ませ、売店で買ったチェコビールを片手に
ソファで寝落ちしました

チェコでの買い付け

さあ古本屋巡り
プラハは古本屋がたくさん
近いところから順番にひたすら回っていきます
制限時間は午後6時
相変わらず直感で本の山を築きます
多いところで70冊、少なくても30冊
観光客で賑わう街中を、本を担いで東奔西走
お昼を食べる時間などは当然ないため、朝のバイキングで作った簡易サンドイッチとチーズを
歩きながら口に放り込みます
古本屋という情報だけを頼りに、はるばる地下鉄やトラムを乗り継いで行っても
絵本の扱いは数冊だったり、カフェにちょいと本を置くスペースがあるだけだったり
そもそも閉業していたりとトラブルはたくさんあったものの
埃だらけの山からザブランスキーを発掘したり
ダンボールに無造作に放り込まれたパレチェクを救出したり
交渉を重ねて奥の部屋から初期のパツォウスカーを出してもらったり
こんな長いレシートを見るのは初めてだわ!
と店員さんに驚かれたりと
充実した仕入れを楽しんでホテルへ戻る
これを毎日繰り返しました

仕入れというのはとにかく楽しいもので、一日中これをやっていてもちっとも飽きない
閉店時間というものがなければ半永久的にやっていられる作業です

「O JABLONCE」

しかし
その先に待ち構えている「運搬」と「郵送」
これはもう全くの別物
プラハで特に大変だったのは「郵送」
郵便局の窓口でどんな局員さんと出会うか
それが運命を分けます
最終日に起きたことをざっと

ダンボールに本をぎゅうぎゅうに詰め、石畳の道をガタガタと郵便局へ向かう
局員さんに「重いから無理」と言われる
「規定の範囲内だから送れるはず」と伝えるも、「私がこれを隣の机に運べないから無理だ」と
仕方なく別の郵便局へ
大行列
どうやらタイの方が、サンタクロースみたいな大きな袋の荷物をそれぞれ別の場所へ送っていたらしい
ようやく僕の番
前二人も韓国と中国の方で、またアジア人かとお手上げジェスチャー
ダンボールを購入するも出てきたダンボールがすでに破れている!
ダンボールの組み立て方がなんだかとっても複雑
外国のガムテープのめくり先が永久に、そして毎回見つからない
ボールペンのインクがまさかのここで切れる

とまあ次々に襲い来るトラブルと戦いながら
なんとかダンボールを送るわけです
そして
そう
もちろんダンボールは一箱じゃありませんよ
降り出した小雨の中ホテルまで戻り
再度石畳の上をガタゴトと、絵本の詰まったダンボールを運ぶのです
想像してください
閉館間際の郵便局に再びやってきた僕の顔を見たときの
局員さんと守衛さんの顔を...
流石に参ったわと親身になってやってくれました
ありがたいことです

「O JABLONCE」
石畳に削られたカート

そんなこんなで、愉快な旅は無事終了
絵本たちも、え?空港でサッカーでもしましたか?というくらいボロボロになったダンボールに守られ
無事にお店に届きました

そんなチェコの絵本たちの中から、今月はこちらをご紹介

『O JABLONCE』
Eduard Petiska 作
Helena Zmatlikova 絵

そう、片山健さんの名作『おやすみなさいコッコさん』の中で
コッコさんが読んでいたあの絵本
ペチシカの『リンゴのき』
その原書です
表紙の男の子はマルチンくん
彼の後ろにあるリンゴの木、今は立派に赤い実を実らせていますが
最初は真っ白い雪の中から突き出した、マルチンくんにはただの「おもしろいぼう」にしか見えないものでした
マルチンは長靴を履き
オーバーを着て
帽子をかぶって外に出てみます
こういう大人には慣れてしまった
「服を着て外に出る」という当たり前の行為を
子どもの目線でしっかりと描くこと
毎日の生活の中におこる一つ一つの出来事をちゃんと描く
ということが、良い絵本の基本だと思います
放っておけば子どもははだかんぼうで外に飛び出しますからね
たとえ雪が積もっていようと
暖かい格好をして庭に出る
本能のままに生きる彼らには、その時点で非日常
大切な一つの出来事なのです
さて、やがて部屋の中のマルチンには
とんとんとんという音が聞こえてきます
雪がとけて「とい」を叩く音です
日常の中に聞こえる新しい音!
この音でマルチンは春の訪れを知ります
何によって春を知るかはきっとそれぞれ違って
マルチンくんにとっては雪のとける音なのです
そんなふうにリンゴの周りに起きるさまざまな変化を通じて
季節は1ページごとに移り変わっていきます
ミツバチ、嵐、夏の乾き
その一つ一つに驚き
ワクワクし、時に怒ったりもしながら
やがてリンゴの実は黄色から赤へと変わります
さあ収穫だ!となった時のマルチンくんの嬉しそうなこと!
庭のニワトリもスズメもびっくり
読んでいても、一年間リンゴのきと変化をともにしてきたマルチンくんの興奮っぷりが、これでもかと伝わってきます

僕たち大人にとっては当たり前でも
子どもにとっては初めて目にするものだったり
僕たちが当たり前のようにこなすことでも
一日の中の大切な行事であったり
ただ服を着る
歯を磨く
それだけのことがとても大きな出来事だったりする
世の中には
初めて目にするもの
初めて耳にする音
初めて嗅ぐ匂い
そしてきっとマルチンくんがこれから体験するであろう真っ赤なリンゴのような
初めて味わう味であふれている
ただ目の高さが低いというだけではない
そういう子どもの目線から描かれている絵本
そういうものを
良い絵本と呼ぶのだと
僕は思います
「りんごのき」
絵本の古本屋MAINTENTより
フランソワバチスト氏がご紹介いたしました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
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