はしれ!かもつたちのぎょうれつ

2018年10月25日
「はしれ!かもつたちのぎょうれつ」

「絵本の中には
大人でもハッとするような
真理のようなものが描かれていることがありますよね」
絵本の古本屋をやっていて、たまに言われることだ
子ども向けのお話なのに
大人が読んでもグッとくる
いわゆる「深い」絵本
子どもの本なのに何故
大人はみな不思議なようだけれど
実はそれは当たり前なのかもしれない

我が家にはもうじき一歳半の娘がいる
妻が夜な夜な離乳食の下ごしらえをしているのを見ながら
ふと思った
子どもの口に入るものには
やはり細心の注意を払う
忙しい朝、自分で食べるのは
便利なレトルトの「味噌汁のもと」でよいかもしれないが
娘が飲むお味噌汁...
と考えたらさあ大変
まず味噌の成分表示を見るし
出汁は鰹節からとるし
お野菜だって!
全てなるべく安全なもの
なるべくよいもの
なるべく余計な添加物のついていないものを選ぶ
この子の口から入り
これから何十年と生きるカラダをつくる源となるものなのだから
そりゃあ真剣になる
例えチョコレートに興味を示しても
お刺身を前に口をあーんとあけて待っていても
大人用の濃い味の方に一生懸命短い手を伸ばしたとしても
あげるわけにゃあいかない
そういうものだ
では
絵本はどうだろう?
絵本はどこから入ってくるか
目から
耳から
そして指先から
心の中に
頭の中に入ってきて
これから何十年と生きる子どもの
ココロをつくる源となる
そう
だから真剣だ
子どもだましというわけにはとてもいかない
ただ欲しがるからと何でも与えてよいわけでもない
はちみつは赤ちゃんには与えられないのだ
そうやって考えに考えるとどんな絵本が出来上がるか
例えばこんな絵本だ

「はしれ!かもつたちのぎょうれつ」
ドナルド・クリューズ
たむらりゅういち 文
評論社

今でも本屋さんに並ぶ、機関車絵本の定番だ
この絵本の何がよいって
まずレールからスタートするところ
いきなり電車がバーン!ではなくて
中表紙はまずレール
めくってもページの左端から右端までレール
次のページ
ここからゆっくり文は始まるけれど
まだレール
敷き詰められた砂利をよく見ると、おそらく前のページとつながっている
長ーいレール
静から始まる物語
次のページ
列車の尻尾、やっと最後尾の登場
車掌の乗った赤い箱
お次はオレンジのタンク
砂利を運ぶ黄色い車
緑の貨物車、次は青、紫と色は濃くなってゆく
静かに止まった違う形、違う色、違う役割の車両たち
「これは何?」の答えが
「貨物車よ」
だけにならない
これなあに?さんにも
なんで?さんにもちゃんと答えられる作り
それぞれにちゃんと違う役割があって
それに沿った形をしている
貨物車は虹と同じように
自然界の1番美しいグラデーションで先頭に向かって変化していく
そしてついに先頭の真っ黒な蒸気機関のおでましだ
黒は美しく、どっしりと重たい
力強さの象徴だ
さあ
形をじっくり堪能した次の瞬間
そのグラデーションの行列が走り出す!
色が混ざる
色が混ざる!
紫と青が、青と緑が、緑と黄色が
このスピード感たるや!
トンネル、街、鉄橋を色が混ざったままの列車が

あっ

という間に過ぎ去り
気づいたら本はもう閉じられている
手をぎゅっと握っていることに気づく
呼吸も瞬きも忘れている

そういえば初めて赤ちゃんを連れて電車に乗ろうとしてホームで待っていたとき
目の前を通過していく中央特快のスピードとパワーに畏怖を覚えた
普段、自分を運ぶ便利な道具として見慣れた電車が
ベビーカーの目線から見たら
自分の力ではなす術のない圧倒的な存在として駆け抜けて行った
これも子どもが生まれるまで忘れていた感覚だ
機関車は速い
機関車は大きい
機関車は美しい
きっと大人が読んでも
物事の
本質のもつ美しさに気付く、名作だ

大人が子どもに自信を持って差し出せるものは何か
君たちが生きて行くこの世界は
こんなに美しくて
こんなに素晴らしいのだよ
ということを伝えられるものは何か

太陽はあたたかい
風がふくと髪の毛が揺れる
水は冷たい
バシャバシャすると楽しい
土はやわらかい
色々な形になる
火は熱い
人にさわるとあたたかい
全て真実
美の基本はシンプルだ
子どもには真実を
最後に、最近お店にいらしたお母さんの言葉が印象に残ったのでここに
「動物の絵本ありますか?
まだ一歳なので、なるべく写真か写実的なものを探しています。」
はっとする一言だった
原題は「freight Train」
まんま貨物列車である
こちらはより文もシンプルで
最後のページの"Gone"がまたかっこいい
「はしれ!かもつたちのぎょうれつ」
フランソワ・バチスト氏がご紹介致しました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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