おおきなくまがいいました

2017年10月27日
「おおきなくまがいいました」

週に一度仕事で横浜に行く
吉祥寺から新宿へ
湘南新宿ラインに乗り換え横浜へ
1時間ほどの電車の旅だ
ボックス席に乗りながら本を読んだり
携帯をいじったり
周りもほぼ同じように自分の世界を過ごしている
新聞であったり雑誌であったり携帯であったり
手の爪や髪の毛の先であったり
色々な所に向けられた目線
その目線がふと
車窓の向こうに向けられる瞬間がある

多摩川だ
空間が急にひらけ

そして河原
そこで思い思いに過ごす人々
釣り
キャッチボール
散歩
車内に閉じこめられていた空気が
一瞬解放される

よい絵本というのは
何となくこの日常の中の多摩川のような本かもしれない

「おおきなくまがいいました」
原作 フィルレスナー
画 クロスビーボンサール
ウェザヒル

ここ最近読んだ本の中で間違いなく
1番お気に入りの一冊だ
人間になりたいこぐまのテッドと
人間てのはどんなことが出来るのか教える大きなものしりぐまのオーガスト
オーガストが説明する
まずカラダを洗って服を着てだな
着る?
着るってなあに?
そうだな
ふくろみたいなものにボタンを...
ボタン?ボタンってなあに?
そしてチャックを...
チャック?
このチャックってのが厄介で
上げたり下げたりするといい音がして
上げたら下がらなくなったり下げたら上がらなくなってしまったり...
曇ってゆくこぐまの表情
更に厄介なのが靴の紐ってやつで...
そしてフォーク
スプーン...
宿題...
一つ一つ説明していく

まず知らないものを初めて聞くときのこぐまの表情の描かれ方が見事
そうそう
そんな顔する!
アタマの中が一生懸命動いているときのその顔!
これはちゃんと子どもの日常を
動きや表情、仕草をちゃんと観察して
愛おしいと思いながら描いている絵
ちゃんと見る
プラスそこにその動きや表情に対する愛おしさがある
というのが本当に大切
(名作「かばくん」のかばを見て頂くとよく伝わります)
画像検索でヒョイ
では生まれない魅力が
間違いなくこのくまにはある
きっとクマを見たのではなく
3歳くらいの男の子を見て描いたのだとは思うが...
(中をお見せ出来ないのが残念
でも表紙のこぐまの右手の添え方
くちびる
左手の体重のかかり具合
おおぐまのお尻の凹み方などを見て頂ければ伝わるはず!)

知らないものを相手に伝える大人のコトバ探しも面白い
そう
いざ説明しようとすると
なかなか丁度よいコトバって出てきてくれないもの
人間てのはフォークやスプーンでご飯を食べ...
フォークってのは先が3つにわかれて尖がっていてあれだ
失敗するとハナに刺さってしまうことも...
なんて説明ついつい僕らだってしてしまう

そこから想像して映像化されるこぐまのアタマの中がこりゃまた面白い
これな〜に期の子どもとふれたことのある方なら皆経験済みのあの光景
ママこれな〜に
これはフラミンゴ
フラミンゴって?
鳥さん
鳥...
ほら羽で空を飛ぶ
ハト!
そうね
ハトさんと同じ仲間
なんでいるの?
そうねーなんででしょうねー
動物園から逃げて来ちゃったのかしら
絵本屋でもしょっちゅう繰り広げられているあの光景
そうか
子どものアタマの中ではこんな風に映像化されているのか
というのが実際視覚化されるのがとても楽しい
これは実際は僕らには見られないもの
でもきっとそうなんだろうな
服というのは袋みたいなもので
ボタンが色々なところについていて
を服を全く知らない状態で描いたらこうなるんだろな
自転車とかも説明難しいよな
だから子どもが描く絵は楽しいんだな
知らないって最高に楽しいよな

(そう
世の中って知るとすごく楽しいけれど
知らないも最高に楽しいんだ
雨がどうして降るか知るのも楽しいけど
雨がどうして降るか空想するのも抜群に楽しい
それが雪ならなおさらのこと
あの山の向こうに
あの水平線の向こうに何があるか
想像するのって最高に楽しい
知らないって最高だ)

どこを切り取っても最高に楽しいし
観察に基づいて丁寧に描かれているし
表紙の木のフォントもいい
完全にマニアな話だが
60年代の紙とインク
そして57年分の時間の匂いもいい
お話の結末もほっこり安心
おすすめは最後のほう
ちびぐまが古い丸太にひとり腰掛けて
自分の足をみつめながら
人間に変身するかどうかじっくり考えているシーン
待っているおおぐまもよい
急かすことなく
ゆっくり答えが出るまで待つ
その姿勢が素敵だ
何となく
その湘南新宿ラインの多摩川のような
日常の中のふとゆるやかになる時間
そんなしあわせな時間を描いた
感動もどんでん返しも教訓もない
ためにならないけど最高の一冊
(本当はちゃんと目に見えない心の養分になりますよ)
「おおきなくまがいいました」
フランソワ・バチスト氏がご紹介致しました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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