ぼくからみると

2017年8月30日
「ぼくからみると」

お店の端っこのほうに常にあるけれど
とくに光が当たることもなく
手に取られ旅立っていくことも
ほぼない本たちのコーナーがある
田島征三さんの「猫は生きている」や
米倉斉加年さんの「おとなになれなかった弟たちに...」
「トミーが3歳になった日」「アンネの日記」
そう
戦争に関する本
普段はひっそり佇んでいるこれらの本たちだが
やはり8月になると手に取られる機会は増えて来る
その中心になる一冊を何にするか
そのことについていつも考える
絵本の古本屋として
小さな子どもたちに
何を伝えられるのか

昨年はピータースピアの「せかいのひとびと」
世界には色々な肌の色、目の色、髪の色
色々な信仰
色々な文化の人がいて
ある人たちにはどうでもよいことが
ある人たちにはとても大切だったりする
同じことで喜ぶ人もいれば
傷つく人もいる
多様性についての絵本を選んだ

一昨年は谷川俊太郎さんの「みみをすます」
色々な声にみみをすまそう
小さな声にも
大きな声にも
そして
一つの声にみみをすますことが
もう一つの声にみみをふさぐことに
ならないようにしよう
そういう詩集

そして
悩みに悩んだ末今年選んだのが
この一冊

「ぼくからみると」
片山健 絵
高木任三郎 文
福音館書店

片山健さんの絵による
夏の青と緑が力強く鮮やかで美しい
生命力にみなみなぎった一冊
舞台は田舎の池のほとり
その名もひょうたん池
草や木が鬱蒼と茂り
わきに舗装されていない道が通っている
道の端には自転車に乗る男の子
なかなかのスピード
池のほとりにはもうひとりの男の子
釣り竿を池にたらしている
これがよし君
まずはよし君から見た景色
人間の男の子から見た
夏のある日のある一瞬の景色
ページをめくると...
池の魚から見た景色
水の中から
キラキラ光る水面を見上げる
またページをくると
かやねずみのお父さんの視線
!こんなところにも命が隠れていた
またページをくる
ぐーんと上がって今度は空を舞うトンビの視点
そう
表紙の彼
ページをくる毎に変化する視点
登場する命
しょうちゃん、カイツブリ、かやねずみ、トンビ、いぬ、よし君
気付かなかった命
気付かなかった視点が次々に
静かに
力強く現れる
あれ?
ぼくってだれだ
しょうちゃん?よし君?
カイツブリ?トンビ?
それとも読んでいるぼく?
描いている片山健さん?
あなた?
わたし?
一つの景色
一つの物事の中に
こんなにも沢山の命や視点があることに驚き
その生命力が片山健さんの絵によって力強く伝わってくる

そう言えば昔懐かしの「ぽっぺん先生と帰らずの沼」も
同じように視点が変わるお話だったな
あれは食物連鎖の話だったか

違う立場になって考えてみる
相手の立場になって考えてみる
小さいころ
「自分がされたらどう思う?」
と言われるあの誰かと仲良くするための基本的な秘訣

家の近くに空き地があって
つい最近まで夏草がわれもわれもと
高見順の詩のようにのびのびしていた
圧巻なのは夜で
自転車で前を通ると
祭りかのような虫たちの声
ぱっと見何もいないように見える世界に
こんなにも沢山の命がいたことに
思わず自転車を止め
暫しの時間を過ごした

綺麗に刈り取られ
そこに命の気配はない
(だが実は種は地中に潜み、次のタイミングを待ち、地中にはミミズやらもぐらやら、目に見えぬ微生物やら、沢山の命が潜んでいるのだ!)
あの虫たちはどこへ行ったのか
どこかの軒下で今夜も鳴いているのか

一冊の中に
沢山の命を包み込んだ
エネルギーに溢れた本
「ぼくからみると」
8月も終わるこの時期
終戦の月に絵本屋が送りたい一冊
手にとってみては如何でしょうか
フランソワ・バチスト氏がご紹介いたしました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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