花を棲みかに

2017年5月30日
「花を棲みかに」

個人的な意見だが
僕がしあわせだったな
と思うのは
何か読みたい本ある?
と親に言われなかったことかな
とふと思った
本屋に行って
読みたい本を選びましょう
と言われた記憶はないし
選んだ本を
それはあなたにはまだ早いわね
と言われたこともない
絵本は家の本棚にあって
知らないうちに少しづつ増えていた
選ぶのは
その中からだった
例えば自分にはまだ早いと思われるような本だって
勝手に父親が絵から物語を作って読んでくれた
欲しいって言ったから買ったのに
と言われることもなく
そもそも
これは良く読んだから当たりの本
これは気に入らなかったから外れの本という感覚もなかった気がする
絵本は当たり前のように家にあった
いつまでも
(もちろん今も)
だからかどうかはわからないが
本に対するプレッシャーのようなものがないまま
本当に自分で好きな本を選べる年齢までこれたのかもしれない
(あくまでこの方法が僕と相性がよかっただけだが)
本は娯楽だ
絵本なんて更に娯楽だ

興味がなければ
本棚にねかせておけばよい
たまに背表紙が目に入る
必要とされる日は
いつか必ず来る
それも
思いがけない瞬間に

エルンスト・クライドルフ 作
矢川澄子 訳
「花を棲みかに」
福音館書店

この不朽の名作
大人がその魅力にやられてしまうクライドルフの代表作もそうだ

我が家には物心ついた頃から
クライドルフやアロイス・カリジェ
ワイルドスミスなど
およそ子どもうけしそうにない本も
「だるまちゃん」の隣
「サラダでげんき」の隣にしれっと挟まれていた

子ども心にこれらの本は
「なんか凄いけど読む本ではない」
と認識されていて
たまに気まぐれで2、3ページ開いてはみるものの
すぐに閉じてしまう本だった
でもよく考えたらそれって凄いことで
読んでいないのに未だにちゃんと記憶に残っているということなのだ
本棚の左隅にあって
たまに取り出して
違うなと思ってまた元に戻した本
ちゃんとそういう記憶として
20年30年経った後にも僕の中に残っている
図書館で借りて来ただけだったら
きっと数日で忘れてしまっていただろう
絵本を沢山読むことが大事なのではなく
読んだ本がいつでも手の届くところにあることが
実は大事なのかもしれない
そして
大人になったある日
ちゃんと近所の本屋で邂逅するのだ
この本本棚にあったぞ!と

開いてみる
大人になった僕にはもうその価値がわかる
なんだこの絵は!
幼い頃に撒かれた種が
にょきにょきと芽を出す瞬間だ

エルンスト・クライドルフ
(1863〜1956)スイスの国民的な絵本作家
幼少期より自然と親しみ
ドイツにて画家として仕事を開始するも体調を崩し
アルプスにて療養する
ある日その美しさに摘んで来たプリムラとリンドウ
その事が結果的にその花の命を縮めてしまうことに気づき
その姿を絵に描く
それが初めての絵本「花のメルヘン」が誕生するきっかけとなる

あからさまに脳内で生み出されたフィクション作品ではなく
佐藤さとるさんのコロボックルシリーズや宮沢賢治の「さるのこしかけ」と同じように
草はらを1時間位見つめていたらきっとこんな光景に出会えるに違いない
そう信じさせてくれる
いわゆる「見える側の人」の作品を生み出した絵本作家

小さな世界を大きな世界と同じように愛しむ
そういう眼差しを持った方で
葉っぱで出来た家
木の枝に弦を張った楽器
バッタの馬車
鉄琴のようなつらら
花の照明
クライドルフの世界を実現させた
クライドルフランドがあればさぞ楽しいだろうと思わせてくれる

そしてひそかに注目しているのは
扉、中扉のデザイン
表紙と違い扉のデザインは凝りに凝っていて
蔓で縁取らていたり
虫たちで囲まれていたり
美しい門や窓のようになっていて
何よりもそれらが
ただ草木や虫をコラージュした感じではなく
あくまで自然の法則の中で描かれている美しさ
葉っぱの虫喰い部分をうまく利用したり
枝の絶妙な曲がり具合
それぞれの特性
Googleの画像検索で調べただけでは決して描けない
匂い
重さ

質感が漂って来る絵
精密画が持つリアリティではなく
そのものが何であるかをしっかり描いたリアリティ
そこがきっとクライドルフの世界の美しさなのだろうと
改めて思う

葉っぱは風で揺れる
虫が飛び立つと葉っぱは揺れる
朝露が葉先からぽたりと落ちると
葉っぱは揺れる
風が吹くと気持ちいい
虫が飛び立った先の空には
雲が浮かんでいる
朝露は落ちると地面に当たって
四方に飛び散る
この世界は美しい

絵本が伝えられるのは
きっとそういう世界だ

非日常を日常として描く魔法使い
エルンスト・クライドルフ
「花を棲みかに」
フランソワバチスト氏がご紹介致しました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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