
「だれのおうちかな?」
作 ジョージ・メンドーサ
絵 ドリス・スミス
訳 福原洋子
あ!これはあれだ
小さい頃出会っていたら夢中になっていたやつだ
一目見ただけでそうピンとくる
そんな作品にたまに出会う
野ばらの村のシリーズしかり
いちごばたけのちいさなおばあさんや
バムとケロもそう
細かい絵が隅々までみっちり描き込まれていて
抜かりがない
気付いたら自分も落書き帳を広げていたりする
そんなタイプの絵本
この「だれのおうちかな?」なんてまさにその王様だ
表紙のネズミはエロイーズさん
名前から察するにフランスの方
彼は設計士
彼は建築家
彼は大工
彼はアーティスト
そして彼は...
天才
森の動物達それぞれに適した
見事な家を作ってくれる
その一つ一つがまあお見事!
表紙からもわかるように
とにかく絵が緻密で
悔しいくらい遊び心に充ちていて
そして純粋に建築物として面白い
例えばチラリと写っている西洋なしの家
これはいも虫の家
中は三層になっていて
まず地下は貯蔵庫
さくらんぼや冬用の枯葉なんかがたっぷり
一階は居住区
窓際には花が
壁にはフルーツの絵が飾ってあったり
アンティークなランプシェード
薪ストーブの上には湯気を立てるやかん
(煙突はちゃんと果物の外に繋がっている)
屋根裏では食用か鑑賞用か植物を栽培中
当のいも虫はというとソファでゆらりとくつろいでいる
この調子で
日向ぼっこの好きなトカゲのためのサンルーフのついた家
回遊する魚のための迷路のような家
ハンターのキツネ用の野原に紛れた家
蜘蛛の家にフクロウの家など
それぞれ建築としての実用的なアイデアで溢れていて
渡辺篤史さんが建物の探訪にいらしたら
「へぇー」「ほぉー」と感嘆されること間違いなしの物件の数々
お見事だし
ひとの住まいを見るのってやはり楽しい
目と頭がワクワクする
読み聞かせ
がメジャーになって来た今
絵本=読み聞かせ
になりがちだけれど
ところがどっこい
読み聞かせじゃ伝わらないこんな面白い本も沢山ある
「はるにれ」や「イエペ」のような
写真絵本しかり
クライドルフやワイズブラウンのような
圧倒的に絵の美しい本しかり
洋書しかり
1人で引き出して
ただじっと眺める
じっと眺める
じっと眺める
文字が読めない?
関係ない
優れた絵本の絵は
絵だけで充分に楽しませてくれるもの
絵の中を旅させてくれるもの
「目のごちそう」とは佐々木マキさんの言葉だったか
ごちそうはブルーライトでチカチカしない
ごちそうは手触りもよい
ごちそうはよい匂いがする
ごちそうは五感を愉しませてくれる
そういえばこの間
肺活量のまだ充分でない子どものために
オトナが最初にぷぅっと風船を膨らませてあげていた
ふと
想像力というのは風船のようなものだな
と思った
想像力の風船はもちろん
肺活量ではなく想像力で膨らませる
子どもの頃に大きく大きく膨らませておくと
オトナになって
地球が平らでないことや
雷がドラゴンの鳴き声でないことがわかる年齢になっても
ちょいと目を瞑るだけで風船はぷぅっとふくらむ
現実と非現実の境い目が曖昧なうちに
想像力の風船を出来る限り大きく膨らませておくこと
夜に太陽が何をしているか
知る前に
目をつむり
頭の中で旅に出る
その手助けになるような本が
世の中に溢れるとよいな
と思う
20年後の吉祥寺が
そんなオトナで溢れますように
今月の絵本
「だれのおうちかな」
吉祥寺の絵本の古本屋MAIN TENTより
フランソワ・バチスト氏がご紹介いたしました
Profile

冨樫 チト (とがし ちと)
本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。