だれも知らない小さな国

2017年2月27日
「だれも知らない小さな国」

違う本で原稿を書いていた
入稿間近だった
だが2月9日
佐藤さとるさんがお亡くなりになった
僕という存在のど真ん中にあって
今の僕を形成しているのは間違いなくこのコロボックルシリーズだ
悲しいけれど
今回はこの一冊について書かなくてはならない

「だれも知らない小さな国」
佐藤さとる 文
村上勉 絵

当然ご存知の方も多いであろう
日本を代表する児童文学作家
横須賀生まれ
佐藤さとるさんの代表作にして
コロボックルシリーズの始まりの物語
「だれも知らない小さな国」
世の中に優れた児童文学は多々あれど
もし大人になるまでに一冊しか読めないのであれば
間違いなくこの一冊を選ぶ
何故か
何故なのか
考えてみる

きっとそれは
これがファンタジーでもフィクションでもなく
これを読む小学校四年生の僕たちには
このお話はまごうことなきノンフィクションだからだ
ピッピもナルニアも素敵だけれど
あれはちゃんとしたフィクションの世界
「床下の小人たち」も小さな人たちを描いた作品だけれど
やはりフィクションだ
「だれも知らない小さな国」が他の物語と違うのは
ノンフィクションのドキュメンタリーとして描かれていること
そこ
この物語に出てくるせいたかさんも
ヒイラギヒコもマメイヌも
みんな実在するところ
実在するとちゃんと信じられること
サンタクロースはいるの?という疑問を持ち始める
それくらいの年令で出会うであろうこの本が
コロボックルはいる!とちゃんと信じられるように丁寧に丁寧に作られている
その部分だと思う

現実と非現実
その境い目は幼い頃はとても曖昧だ
そしてそれは素晴らしく貴重で
素晴らしくしあわせな時間だ
その限られた魔法の時間を存分に楽しめるように
世の中には沢山の絵本や児童書が存在している
その魔法は些細なきっかけでとけてしまう
その瞬間を1日でも遅らせたい
そのために世界中の魔法使いたちが
ペンを駆使して物語を紡ぎだす
日本の誇る偉大な魔法使い佐藤さとるさんも
もちろん抜かりが無く
コロボックルを何度疑おうが
いいや大丈夫
コロボックルはいるよ
とちゃんと信じさせてくれる
これはそういう貴重な本なのだ

個人的な話になるが
この一冊がなければ
僕は絵本屋をやっていない
小さい頃この本を読んで真面目に
セイタカさんは自分だと思っていた
ここには自分のことが書かれている!
と同時に
ここに書いてあるセイタカさんの年令と自分の年令を比べて
幼い僕は混乱していた
セイタカさんは将来の自分の姿だ
コロボックルに選ばれる人間は僕だ
と本当に思っていた
絵本屋を設計するときに頭にあったのは
セイタカさんが初めてコロボックルたちみんなと会うあの小屋のシーンだ
あのシーンのような
あれがおきても違和感のないような場所を作ろう
そう思った
少年の頃
想像力の入れ物を目一杯広げてもらえたおかげで
未だに頭の中は無限大だ

長くなって来た
伝えたいことが沢山あり過ぎる
佐藤さとるさんはもちろん他にも優れた作品を沢山世の中に送り出していて
自分で編んだ飛行機で空を飛ぶ「おばあさんのひこうき」
誰でも一度は憧れる夢のツリーハウス「大きな木がほしい」
更には「赤んぼ大将」シリーズや
隠れた名作
鉄塔と友だちになる「ジュンとひみつの友だち」など
いずれも子どもの頭の中の想像力を目一杯広げてくれること間違いないお話ばかりだ

「だれも知らない小さな国」が生まれたのは1958年
翌年自費出版される
シリーズ3作目「星からおちた小さな人」から挿し絵が村上勉さんになる
当時村上さんは23.4歳
かなり若手の絵描きさんだった
その先ずっと続く2人のコンビはここから始める
やがて改版のおりに1.2巻も
みなさんもよくご存知の村上さんの挿し絵に全て変わる
この作家さんの本はこの方の絵で読みたい
その典型的な例だと思う
どの本にも通じるのは
読んでああ面白かった!で終わらないところ
本を閉じた後も
もし自分だったら...
もしコロボックルが今出て来たら...
大きな木があったら...
とついつい想像力の羽根を伸ばしてみたくなるのだ
よく漫画などで見る頭の上に表れるモワモワ
あれが出やすい作家さんである

あのモワモワがそのまま雲になって部屋の中をゆっくり移動して
あるところで雨を降らせ
そこから芽が出て...

なんて妄想が頭の中で広がるようになったのも
佐藤さとるさんのチカラかもしれない
10歳の僕と
今の僕
2人からお礼を言わせて下さい
ありがとうございました

今月の絵本紹介
佐藤さとるさんの代表作
「だれも知らない小さな国」
フランソワ・バチスト氏がご紹介致しました

Profile

冨樫 チト(とがし ちと)

冨樫 チト (とがし ちと)

本名である。フランス童話「みどりのゆび」のチト少年にちなんで両親から命名される。富士の裾野の大自然の中、植物画と読書と空想の幼少期を過ごす。
早稲田大学在学時よりプロダンサーとしての活動を開始。
舞台演出、振付け、インストラクター、バックダンサーなど、踊りに関わる全てに携わる傍ら、持ち前の遊び心で、空間演出、デザイナー、リゾートホテルのライブラリーの選書、壁画の製作、ライブペイントによる3Dトリックアートの製作など、無数のわらじを履く。
2015年2月、フランソワ・バチスト氏として、住まいのある吉祥寺に絵本児童書専門古書店、「MAIN TENT」をオープン。
氏の部屋をそのまま移動させた小さな絵本屋から、エンターテインメントを発信している。

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